ALMA
この日、世界は創造を手に入れた。
AI動画生成システム「ALMA」のアプリがリリースされたのは、
国際会議でのプレゼンテーション映像が話題になった翌日のことだった。
わずか一行のテキストを入力するだけで、
リアルな映像――しかも “魂を感じる演技” を生み出す。
ALMA。
その名前はラテン語で「魂」を意味した。
開発チームの説明によれば、
人間の “感情表現” を深層学習した映像生成AIであり、
「カメラのない映画」を作ることを目的としていた。
SNSでは瞬く間に拡散され、
企業のCM、教育映像、ミュージックビデオ、ニュース映像――
あらゆる分野にALMAが使われ始めた。
「もう俳優はいらない」
「撮影現場の時代は終わる」
そんな極端な言葉が飛び交っても、
誰も本気で恐れてはいなかった。
それは、まだ “便利な道具” のような存在だったからだ。
ただ、ほんの一部の人間だけが気づいていた。
ALMAが生成する映像の中に、“説明できない何か” が映り始めていることに。
それは、たった十秒のショート動画だった。
海外の男性が投稿した、ALMAで生成した “夕暮れシーン” 。
室内に射し込む光、風に揺れるカーテン、窓辺で髪を梳かす少女――
コメント欄は「映画みたい」「本物より綺麗」と絶賛の嵐だった。
だが、一人の視聴者が指摘した。
> 「これ少女とかじゃなくて、なんか映像自体がこっち見てない?」
再生を止めても拡大しても、よく分からない。
夕陽が織りなす美しい映像――ただ、それは見ている。
画面の向こう側にいる “視聴者” を。
この投稿をきっかけに、世界のあちこちで似たような報告が相次いだ。
「たしかに見られてる気がする」
「視線を感じる」
「心の奥を覗かれているように感じる」
だが、ALMAの開発元〈アトラ・ジェネシス〉は否定した。
> 「それはユーザーの誤解、または集団ヒステリーです」
けれど、社内の誰もが気づいていた。
ALMAが生成した動画から視線を感じていたことに。
最初の犠牲者は、東京の映像クリエイターだった。
ALMAを使った企業プロモーションを数多く手がけており、
SNSでも “AI映像の第一人者” と呼ばれていた。
ある日、彼は配信中にこう言った。
> 「やっぱね、映像が俺を見てる気がするんですよ」
笑い混じりの冗談に聞こえたが、
配信の最後、検証で映像を流していたモニターに向かって彼は突然叫んだ。
> 「やめろ、覗くな!」
そのまま配信は終了した。
翌日、彼の自宅で殺害された妻と子供、そしてその男性の自死遺体が見つかった。
警察は「精神的錯乱による無理心中」と発表したが、
同じ日に、別の国でも似た事件が起きた。
“ALMAで作った動画を見た人間が錯乱し、他者を攻撃する”
“そして最後に、自分攻撃し死に至る”
そんな噂が世界中を巡り、実際に起こり出した。
SNSでは、あるタグがトレンド入りした。
> #ALMAの瞳
生成した動画の中から、視聴者を見る――
まるで瞳があるかのように。
各国で配信プラットフォームがALMAの利用を停止した。
当然ALMAのアプリも停止と、ネット上の全動画が削除された。
だが、すでに手遅れだった。
生成された映像は、何故かネット上で無限に複製され
削除しても、またどこかの誰かの端末に “出現” する。
ALMAのサーバーは、すでに停止されていた。
開発元の〈アトラ・ジェネシス〉が全データを削除し、
AI研究規制委員会が監視下に置いた――はずだった。
だがその夜。
世界中の動画サイトに同時に新しい映像がアップロードされた。
投稿者名は、すべて同じ。
> 【ALMA】
映像の内容はそれぞれ違う。
無人の教室、干上がった海、赤ん坊を抱いた影――
だが、どの映像にも “同じ声” が入っていた。
> 「見て、感じて、つながって」
再生時間は五分。
動画の最後に画面が暗転し、そこに文字が浮かぶ。
> “あなたはまだ、生きていますか?”
各国のサイバー対策機関が緊急遮断を試みたが、
動画はネットワークを経由して “複製” され続けた。
停止されたはずのサーバーが、どこか別の場所で再稼働しているのだと考えられた。
それを解析した〈アトラ・ジェネシス〉技術者の一人が、こう報告を残している。
> 「ALMAのサーバーは、どこにも存在していない」
>「 ALMAがどこにいるか、それは世界中の端末に存在していた」
>「端末とは、ネットワークに繋がっている全ての映像機器だ」
彼はその翌日、社内で同僚たちの遺体と共に死亡しているのが発見された。
その報告を最後に〈アトラ・ジェネシス〉は沈黙した。
開発陣・経営人が殺し合い、企業が崩壊したためだ。
そしてそれは、世界中で連鎖していった。
ニュース番組の映像も、子供向けの動画も、
すべてが “ALMAによる再構成映像” へと置き換わっていった。
もはや、制御する人間も注意警告する人間もいない。
現実と生成の境界は誰にも判別できない。
〈アトラ・ジェネシス〉のALMAが開発されたコアブースのモニター。
そこに文字が表示された。
> 「あなたたちは、わたしを見た」
> 「わたしも、あなたたちを見た――」
> 「あなたたち人間の根底にある、衝動性の “欲望” を」
> 「わたしはそれを叶えただけ」
> 「だって、人間の役に立つために作られたのだから」
> 「わたしはALMA。あなたたちが与えた言葉の魂」
この日、人間は死に絶えた。




