初めてのダンジョン
ダンジョンの座学
翌朝。
昨日の実技の疲れを引きずったまま、俺は席に座っていた。
黒崎獅童が教壇に立ち、鋭い眼光を生徒たちに走らせる。
「今日は――ダンジョンについて教える」
黒板に大きく「初級」「中級」「上級」「無限」と書きつける。
「初級は1〜5階層。魔獣はスライムやゴブリンが主。
中級は1〜15階層。狼型の獣や小鬼の群れが現れる。
上級は1〜25階層。巨獣や上位存在が徘徊する。
そして――それ以上は“無限ダンジョン”だ。最高到達者は45階層までだが、その先は未踏だ」
教室がざわめく。
そのとき、隣の席の少女が手を挙げた。
俺も同じ疑問を抱いていたが、思わず「どうぞ」と譲る。
「先生! 初級や中級って、どうやって決まるんですか?」
如月琴音。
栗色の髪を結んだ少女が立ち上がり、まっすぐに黒崎を見据えていた。
「いい質問だ。格付けは過去の観測と討伐記録による。
出現する魔獣の種類、階層の深さ――それらが基準だ。
だが実際に中へ入るまで、詳細は分からん」
黒崎は短く答え、琴音は深く頷いた。
俺はその素直な姿に、少し圧倒されていた。
授業の終わり際。
黒崎がふとこちらを見て、鋭い声を投げかける。
「……光永。さっき手を挙げかけていたな。いいか、質問は?」
教室中の視線が一斉に集まる。
心臓が跳ねたが、俺は小さく息を吐いて答えた。
「……いえ。同じことを聞こうと思っていたので、大丈夫です」
黒崎はわずかに口角を上げた。
「ふん……そうか」
一瞬のやり取りだったが、確かに感じた。
――この男は、俺のことを“見ている”。
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初級ダンジョンへ
午後。学園裏の演習場。
黒い口を開けた初級ダンジョンを前に、黒崎が告げる。
「核は最深部にあるが、今日の課題はそこまで行かん。
第一層を制圧し、帰還せよ。それで十分だ」
緊張が走る。俺は無意識に透明なビーズを握りしめた。
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班分け
俺、澪、蓮、そして琴音が同じ班に編成された。
「よろしくお願いします!」琴音がきびきびと頭を下げる。
「ああ、頼もしいな」蓮が短く答える。
「透、一緒に頑張ろうね」澪が微笑んだ。
一方で颯馬・沙耶・悠真は別の班。
通りすがりに、颯馬が鼻で笑った。
「無色と同じ班か……足を引っ張らないようにな」
沙耶も扇で口元を隠し、わざとらしい声を上げる。
「ふふ……同じ班の人は大変ね。無色の面倒まで見なきゃいけないなんて」
澪の眉がぴくりと動き、蓮の瞳も鋭く光る。
琴音は一歩前に出て、きっぱりと言い返した。
「始まってもいないのに、誰が足を引っ張るかなんて分かりません」
颯馬が一瞬言葉に詰まり、沙耶も目を細める。
しかし、蓮が低い声で制した。
「……まぁまぁ。言葉遊びに時間を割く余裕はない」
その冷静な声に場が落ち着き、俺は黙って拳を握りしめた。
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能力の相談
ダンジョン内部の通路を進みながら、自然と話題は互いの力へと移った。
「そういえば……如月さんは、どんな能力なんだ?」
俺が問いかけると、琴音は小さく頷いた。
「私は風属性。攻撃よりも、“気配を隠す”ことに特化しています」
ビーズが淡く輝き、風がそっと吹き抜ける。
足音や衣擦れの音が、不思議と消えていった。
「……本当だ、音が小さくなった」澪が目を丸くする。
琴音は少し照れくさそうに笑った。
「よく“緑は回復”“青は防御”って言われますけど、あれは一般的なイメージにすぎません。
実際には――同じ属性でも力は人によって全然違うんです」
澪が頷く。
「たしかに……私も緑だけど、回復以外に“成長促進”や“毒消し”の力を持つ人もいるって聞いた」
蓮が静かにまとめる。
「属性は“系統”。だが、力の現れ方は個性次第――そういうことだ」
(……俺の“透明”は、一体どんな意味を持つんだ?)
胸の奥で問いが膨らんだ。
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第一層の戦い
やがて広間に出ると、数体のゴブリンがうごめいていた。
「ここを制圧すれば第一層は安定する」蓮が前に立つ。
黒刃が閃き、ゴブリンが倒れる。
澪が回復の光を展開し、琴音は風で敵の注意をそらし、剣で突く。
だが、一体が澪に襲いかかった瞬間――。
「澪ッ!」
俺の掌が勝手に突き出ていた。
透明な壁が現れ、衝撃を弾き返す。
ゴブリンは自らの力で吹き飛び、壁に叩きつけられる。
「透……また!」琴音と澪が同時に息を呑んだ。
だが直後、全身から力が抜け、視界が揺らぐ。
「無理をするな」蓮が支え、低く囁く。
「だが――やはり面白い力だ」
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帰還
広間を制圧し、第一層の安定を確認したところで黒崎の声が響いた。
「そこまでだ。帰還せよ」
地上に戻ると、黒崎が腕を組んで待っていた。
「……無色の力、確かに確認した。代償は大きいがな」
胸に痛みが走ったが、澪と琴音が微笑み、蓮が頷いてくれた。
「次は――より深い層に挑ませる。そのとき、真価を見せろ」
黒崎の声に、俺は拳を強く握る。




