戦う理由と無色の片鱗
クラス分け
入学式の翌日。
大講堂の壁に張り出された紙には、新入生の名前とクラス分けがずらりと並んでいた。
俺と澪、そして蓮は――第一クラス。
そこには颯馬、沙耶、悠真といった上位者たちの名前も並んでいる。
「第一クラスは精鋭育成を目的とする。成績上位者、そして特殊な判定を受けた者が集められている」
そう説明がなされると、周囲からざわめきが起きた。
「……無色が精鋭?」「不思議な人選だな」
俺に向けられる視線は、相変わらず冷たいままだった。
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黒崎獅童の自己紹介
重い足音が響き、教室に壮年の男が入ってきた。
白髪混じりの髪を後ろに撫でつけ、頬には古い刀傷。
その鋭い眼光は、生徒一人ひとりを射抜くように光っていた。
「俺の名は――黒崎獅童」
低く響く声が教室を圧する。
「第一クラスを担当する。かつては前線に立った戦士だ。
名を刻む覚悟のない者は、この場に立つ資格はない」
その言葉に、生徒たちは自然と背筋を伸ばした。
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筆記授業「何のために戦う」
「よし、まずは座学だ」
黒崎は教壇に立ち、鋭い視線を走らせる。
「お前たちに問う。――何のために戦う?」
突然の問いに、教室がざわめいた。
颯馬が真っ先に手を挙げる。
「国のためだ! 戦士は国家の楯であるべきだ」
「悪くないが、浅い」黒崎は切り捨てる。
沙耶が扇を口元にあて、微笑んで答えた。
「人々の称賛と名誉のため、でしょう?」
「愚かだな。称賛など虚飾にすぎん」
悠真が冷ややかに言う。
「秩序の維持だ。力なき世界は混乱する」
「近いが、それも半分だ」
黒崎の眼光が鋭くなる。
「戦士が戦うのは――人々を守るためだ」
静まり返る教室。
「ビーズダンジョンは突如として現れ、都市を飲み込み、命を奪う。
攻略できねば世界は蝕まれる。お前たちはその脅威に立ち向かう楯であり、希望だ」
重い言葉が胸に響き、俺は思わずビーズを握りしめた。
「だが――すべてのダンジョンを攻略した時、何が起きるのかは未だ不明だ」
黒崎は言葉を区切り、ゆっくりと口元を歪める。
「その問いを理解するのは……お前たち自身だ」
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指名された二人
「神谷蓮。答えてみろ」
黒崎に名を呼ばれ、蓮が静かに立ち上がる。
「戦うのは人を守るため。そして、未来を切り拓くためです」
淀みない声。模範解答に、教室中が感嘆の声を漏らした。
「……よし」黒崎は頷く。
「光永透。お前はどうだ」
いきなり名を呼ばれ、心臓が跳ねた。
震える声で、それでも絞り出す。
「……守りたい人がいるから。理由はそれだけで十分だと思います」
一瞬、沈黙が落ちた。
黒崎は俺を見据え、低く呟いた。
「……悪くない」
評価かどうかも分からないその声が、妙に心に残った。
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実技授業「制御訓練」
「次は実技だ。ビーズを媒介に魔力を流し、武器を顕現しろ」
颯馬が赤い剣を生み出し、教室を熱気に包む。
「これが俺の力だ。最下位とは違う」
沙耶は紫の刃を揺らめかせる。
「幻もまた武器になるのよ。ねえ、“無色”くん?」
悠真は冷静に青の盾を作り出した。
「攻防の基礎だ。理解できるか?」
それぞれが堂々と力を示し、俺を見下ろす。
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無色の片鱗
「光永。お前だ」
黒崎の声に促され、俺はビーズを握る。
……やはり色は現れない。
「やっぱり無色か」「笑わせる」
冷たい声が飛び交う中、黒崎が模擬モンスターを呼び出した。
「力がないなら、防御くらいは見せてみろ」
モンスターが跳びかかる。
反射的に掌を突き出すと、透明な壁が現れ、衝撃を弾き返した。
モンスターは自らの力で吹き飛ぶ。
教室がざわめきに包まれる。
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評価と支え
「……防御と反射。無色にしては面白いな」
黒崎が顎を撫でる。
だが颯馬は舌打ちした。
「偶然だろう。実戦じゃ役に立たねぇ」
沙耶は肩をすくめる。
「鏡写しの真似事かしら。でも不安定すぎるわ」
悠真は冷ややかに告げた。
「守るだけでは勝てない。結局、足を引っ張るだけだ」
「透、大丈夫!」
澪が強く言い切る。
「私は知ってる。あのとき私を救ったのも、その力だった」
さらに蓮が立ち上がる。
「守れる者を、軽んじるな」
黒の光が一瞬、教室を圧した。上位者たちは沈黙するしかなかった。
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不安と決意
授業が終わり、机に突っ伏しながら思った。
(やっぱり俺の力は異端だ……。でも――)
隣で笑う澪、前で静かに歩む蓮。
二人の存在が、胸に残った不安をかろうじて支えてくれていた。
(必ず証明してみせる。この“無色”が、無意味じゃないことを)
透明なビーズを強く握りしめ、心に誓った。




