神谷蓮 vs 荒城武瑠
神谷蓮 vs 荒城武瑠
観客の熱気がまだ収まらぬ中、黒崎は次の名を告げた。
「――次の試合。神谷蓮 対 荒城武瑠。前へ」
会場がざわめく。
「来たぞ……首席、神谷蓮!」
「相手は“緑の怪力”荒城だ! あの腕力を止められる奴なんていない!」
試合場に現れたのは巨体の少年――荒城武瑠。
緑のビーズが脈動し、全身に力強い光を巡らせている。
その肉体は常人の何倍にも強化され、拳を握るだけで大気が震えるようだった。
「……首席だろうが関係ねぇ。俺の拳で叩き潰す」
低く響く声に、観客の期待が高まる。
一方、蓮は黒の剣を抜き、冷ややかな瞳でただ一言。
「……終わらせよう」
⸻
開戦
「始めッ!」
黒崎の号令と同時に、武瑠が巨体で突進した。
強化された脚力で床を砕き、岩石のような拳を振り下ろす。
「潰れろォッ!」
その一撃は、まともに受ければ肉体ごと粉砕されるだろう。
だが――黒い閃光が走った。
蓮の剣が音もなく振り抜かれ、武瑠の拳をかすめると同時に防御の緑光が裂けた。
「なっ……!?」
武瑠の目が驚愕に見開かれる。
⸻
圧倒的差
「まだだァァッ!」
武瑠は叫び、さらに緑光を巡らせる。
筋肉が膨れ上がり、皮膚が軋む音が響く。
「これが俺の本気だ!」
だが蓮は一歩も退かない。
冷ややかな剣筋は寸分の乱れもなく、武瑠の突進を斬り払い続ける。
巨体が揺れ、肩口から鮮血が飛び散った。
「くっ……嘘だろ、俺の防御が……!」
⸻
決着
黒崎の声が響く。
「――勝負あり。勝者、神谷蓮」
観客席は一瞬の沈黙の後、爆発するようなどよめきに包まれた。
「圧倒的だ……!」「やっぱり首席は別格!」
「緑の怪力を正面から斬り伏せるなんて……!」
武瑠は悔しげに歯を食いしばり、地に伏した。
蓮は一礼し、静かに試合場を後にする。
⸻
黒崎の視点
歓声が響く中、黒崎獅童は腕を組み、蓮の背を鋭く見据えていた。
(……妙だな)
剣筋は無駄がなく、呼吸も乱れない。
学園に入って数か月の生徒が身につけられるものではない。
あれは戦場で幾度も死地を越え、経験を積み重ねた者の技――。
(下手をすれば……俺よりも、か)
黒崎は目を細め、疑念を胸に沈めた。
ただの新入生ではない――神谷蓮の正体に、影が差していた。