天城悠真 vs 佐伯迅
第三回戦 天城悠真 vs 佐伯迅
試合場を後にする琴音の背を、観客はまだざわめきながら見送っていた。
その空気を切り裂くように、黒崎が前に出て声を張り上げる。
「第三回戦――天城悠真 対 佐伯迅。前へ!」
ざわつきがさらに大きくなる。
「悠真……本当に大丈夫なのか?」
「半年前の大怪我からまだ戻ってないだろ」
「相手は佐伯迅だぞ、“雷迅”の異名を持つ強豪だ!」
青の盾を握りしめ、悠真がゆっくりと前へ進む。
その表情は以前の驕りを捨てた、冷静で引き締まったものだった。
一方の 佐伯迅 は黄色のビーズを輝かせ、稲妻を纏う双短剣を軽々と構える。
「怪我明けの相手か。楽に倒してやるよ」
挑発的な笑みに観客席から笑い声が起きた。
黒崎が鋭く手を振り下ろす。
「――始めッ!」
⸻
開幕
迅の姿が雷光と共に消えた。
「はやっ!」「もう見えない!」
観客の声が響いた次の瞬間、悠真の盾に鋭い斬撃が叩きつけられる。
ガキィィンッ!!
衝撃が走り、青い光の壁に亀裂が走った。
「どうした悠真! 防ぐだけか!」
迅は雷光の連撃を浴びせかけ、悠真を押し込んでいく。
観客は息を呑む。
「やっぱり無理だ……」「全盛期の力はもうないんだ!」
⸻
決意
だが――悠真の瞳は揺らいでいなかった。
(もう二度と……守れずに倒れるわけにはいかない!)
次の瞬間、悠真の盾が青白く輝きを増した。
重厚に、分厚く、まるで城壁そのものへと変わっていく。
「なに……!?」
迅の雷撃を、悠真は微動だにせず受け止めた。
「俺は昔の俺じゃない。――これは仲間と自分を守るための盾だ!」
⸻
逆転
苛立つ迅が双短剣を交差させ、全魔力を集中させる。
「なら……これで砕け散れッ!!」
稲妻が奔流となり、試合場を白く塗りつぶす。
悠真は息を吸い込み、叫ぶ。
「来い……俺はもう退かない!」
轟音。閃光。
雷撃が盾に叩きつけられた瞬間、青光が逆流するように爆ぜた。
「ぐっ……!!!」
雷ごと弾き返され、迅の体が宙に浮き、そのまま床へ叩きつけられる。
双短剣は手を離れ、床に転がった。
⸻
決着
黒崎の低い声が会場に響く。
「――勝負あり。勝者、天城悠真」
一瞬の沈黙の後、観客席が爆発するようなどよめきに包まれた。
「嘘だろ……雷迅を止めたぞ!」
「悠真……変わったな。あの盾はもう折れない!」
悠真は膝をつき、肩で息をしながらも、静かに盾を下ろした。
その顔には誇りと覚悟が刻まれ、かつての驕りの影は微塵もなかった。