不適合者
入試の日
石畳の広場に、数百人の若者が集まっていた。
空は快晴で、春の風が校舎を包み、張り詰めた空気を少しだけ和らげている。
――ここが、ビーズ学園。
国家直属にして唯一無二、最高の戦士を育てる学び舎。
門をくぐることが許されるのは、試験を突破した者だけだ。
「透、大丈夫?」
隣に立つ若葉澪が不安そうに見上げてくる。
緑のビーズを手に持ち、その輝きはもう彼女の適性をはっきりと示していた。
回復と補助――目立ちはしないが、仲間を支える確かな力。
「ああ……大丈夫だ」
本当は心臓が爆発しそうなくらい緊張していたが、澪に心配をかけたくなくて強がった。
⸻
筆記試験
午前は筆記試験だった。
歴史、魔力理論、属性学……分厚い答案用紙にびっしりと並ぶ難問。
俺は必死に食らいついた。
属性の力はなくても、知識だけは積み重ねてきた。
「落ちこぼれ」と言われても、学ぶことだけは諦めなかったからだ。
試験会場の隅に座る一人の少年が目に入る。
黒髪の優等生――神谷蓮。
彼は迷いなく答案を書き進め、姿勢も崩さず、完璧な集中を見せていた。
(……すげぇな……)
思わずそう呟きそうになる。
この時はまだ知らなかった。やがて彼が俺の人生に深く関わってくることを。
⸻
実技試験
午後からは実技――ダンジョン攻略試験。
筆記を突破した者だけが、この門をくぐれる。
俺と澪は小規模なダンジョンへと送り込まれた。
石造りの通路は薄暗く、どこか湿った匂いが漂う。
「核を破壊すること。それが課題だ」
試験官の声が響き、受験者たちは散開した。
赤属性の少年は掌から炎を放ち、迫るモンスターを一瞬で焼き尽くす。
青属性の少女は水を操り、敵を押し流していく。
誰もが堂々と力を使い、己の存在を証明していた。
一方で俺は――。
「……何も出ない」
ビーズを握りしめても、光は無色のまま。
剣も盾も弓も、形を成さない。
ただ立ち尽くすしかなかった。
⸻
澪の危機
「透、来るよ!」
澪の声と同時に、鋭い爪を持つモンスターが飛びかかってきた。
澪は仲間を癒やすのに集中していて、完全に無防備だった。
「澪ッ!」
考えるより先に体が動いた。
無意識に突き出した掌から光が弾ける。
透明な壁が現れ、モンスターの爪を受け止める。
次の瞬間、衝撃はそのまま反射し、モンスター自身を吹き飛ばした。
「……防いだ? いや……反射……?」
「透……今の!」
俺自身、何が起きたのか分からなかった。
⸻
魔力の代償
安堵も束の間、全身から力が抜けた。
視界が揺らぎ、頭痛と吐き気に襲われる。
膝が崩れ落ち、呼吸が乱れる。
「透ッ! 大丈夫!?」
澪の緑の光が体を包み、必死に意識を繋ぎ止める。
――一度の防御と反射、それだけで魔力を使い果たしていた。
試験官たちはざわめき、やがて結論を下した。
「属性は確認できない……だが確かに力はあった。
ただし、実技の評価は最下位である」
その言葉が胸に重く突き刺さる。
⸻
不安
澪に支えられながら外に出たとき、青空がやけに眩しく見えた。
受験生たちは皆、堂々と笑っていた。
俺だけが、胸の奥に重たい影を抱えていた。
(筆記は首位……でも実技は最下位……これで本当にやっていけるのか……?)
それでも――。
「透、大丈夫。私がいるから」
澪の声に、ほんの少しだけ前を向ける気がした。
こうして俺は、かろうじて学園への切符を掴んだ。
――けれど、この力が俺をどんな運命へ導くのか、その時の俺はまだ知らなかった。




