如月琴音 vs 新堂圭吾
第二試合後
泣きじゃくりながら退場していく沙耶の姿に、会場はまだざわつき続けていた。
「まさか沙耶が……」
「回復役があんな戦い方を……」
「もう澪の矢がトラウマになってるぞ」
廊下に消える沙耶は、振り返ることもできず、ただ澪を一目見るだけで肩を震わせ、吐き気をこらえるように口を押さえていた。
“幻惑の姫”と呼ばれた誇りは、完全に打ち砕かれていた。
試合場に残った澪は、凛とした表情のまま深く一礼してから戻っていく。
観客の視線は嘲笑ではなく、戸惑いと驚きに変わっていた。
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第三試合開始
黒崎が中央に立ち、低く告げる。
「第三試合――如月琴音 対 新堂圭吾。前へ」
場内が再びざわめきに包まれる。
「新堂圭吾!? 二年連続で首席合格した名家の息子だろ」
「如月琴音? 風属性って聞いたけど……支援型じゃ勝てないんじゃないか?」
両者が試合場に歩み出る。
琴音は真剣な眼差しで前を見据え、圭吾は余裕の笑みを浮かべていた。
「風で俺を倒す? 笑わせるな」
圭吾の声に観客から笑いが起きる。
だが琴音は小さく息を整え、きっぱりと返した。
「……支援だからって、侮らないでください」
黒崎が刀を掲げ、鋭く振り下ろす。
「――始めッ!」
圭吾の炎剣が唸りを上げる。
床石が焼け、火柱が立ち、観客は熱狂する。
琴音は素早く身を翻すが、防戦一方。掠っただけで制服の端が焦げた。
「やはり支援型は無理だな」
圭吾が勝ち誇る。
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真価
だが琴音は静かに呟いた。
「……支援は、仲間にしか使えないわけじゃない」
次の瞬間――風が渦を巻き、琴音の姿が完全にかき消えた。
「……なっ!? 消えた!?」
「どこ行った!?」
観客がざわめき、圭吾が炎を振り回す。だが空を斬るばかり。
「まさか……透明化だと……!?」
圭吾が焦りの声を上げた瞬間。
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決着
「――ここです」
背後から風の声が響く。
次の瞬間、圭吾の手元に鋭い風圧が叩き込まれ、炎剣が弾き飛んだ。
「ぐっ……!」
圭吾は目を見開き、床に膝をつく。
黒崎が冷厳に告げる。
「――勝負あり。勝者、如月琴音」
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観客席
「……本当に消えてたぞ!」
「風で自分を隠すなんて……そんな使い方が!」
「支援役どころか、暗殺者みたいだ……」
観客はどよめきに包まれ、圭吾は顔を歪めて拳を握りしめた。
琴音は肩で息をしながらも、静かに一礼する。
その姿に、誰も「支援型」と嘲ることはなかった。