光永透 vs 藤堂颯馬
第一試合 光永透 vs 藤堂颯馬
次の瞬間、颯馬の炎剣が火花を散らして襲いかかってきた。
灼熱の斬撃が空気を裂き、観客席から悲鳴に近い声が漏れる。
颯馬の左腕は、かつての戦いで失ったまま。
今は黒鉄の義手が装着されており、その動きは生身に比べてわずかにぎこちない。
それでも彼は赤炎の剣を握りしめ、戦士の誇りと執念を燃やしていた。
「うおおおおッ!」
颯馬の咆哮とともに、炎剣が振り下ろされる。
だが――俺は動じなかった。
掌を突き出し、透明の壁を展開。
轟音が響き、炎剣は壁に叩きつけられたが、刃は貫けない。
次の瞬間、衝撃が反射し、颯馬の体が後方へ弾かれた。
「ぐっ……な、なんだと!?」
義手がきしみ、赤炎の剣が揺らぐ。
観客席がざわめく。
「無色が……受け止めた!?」「しかも反射してるぞ!」
⸻
修行の成果
颯馬は歯を食いしばり、再び剣を握り直す。
「まだだ……! 片腕でも、俺は戦士だッ!」
渾身の踏み込みとともに、炎剣が迫る。
だがその動きは――俺には見えていた。
「颯馬。昔の俺なら怯えて守るだけだった。
でも――修行の成果を、ここで示す!」
右手に透明の剣を顕現させ、颯馬の剣を受け流す。
火花が散り、炎と透明の刃が拮抗する。
すかさず壁を展開し、至近距離から衝撃を反射させた。
「ぐああああッ!」
炎剣が弾かれ、颯馬の体が宙に浮かび、無様に地面へと叩きつけられる。
⸻
決着
義手が軋む音を残し、颯馬は剣を取り落とした。
赤炎の光は掻き消え、燃え残りの火花だけが宙を散る。
「勝負あり!」
黒崎の声が試合場に響き渡る。
観客席は騒然となった。
「無色が勝った……!?」「信じられねぇ……」
「いや、颯馬は片腕だしな」「反射がたまたま決まっただけだろ」
「どうせ次で負けるに決まってる」
称賛よりも嘲笑と疑念の声ばかりが渦を巻いた。
⸻
颯馬の動揺
「……俺が……負けた?」
颯馬は地に伏したまま、呆然と呟いた。
「俺は……入学試験で実技2位だったんだぞ……
“無色”なんかに……負けるはずが……!」
震える指先で義手を押さえ、うつろな瞳で赤炎の剣が消えた空間を見つめる。
唇が何度も震え、言葉にならない呻きだけが漏れる。
敗北を受け入れられない――そんな表情だった。
観客の嘲笑がさらに突き刺さる。
「やっぱり片腕じゃな……」「終わってるな、颯馬も」
「無色に負けるとか、二度と立ち直れねぇだろ」
その声に、颯馬は顔を歪め、奥歯を食いしばった。
⸻
透の心境
俺は深く息を吐き、透明のビーズを握りしめる。
(まぐれだと思われてもいい。……俺は確かに勝った)
澪が安堵の笑みを浮かべ、琴音は驚きの表情を見せ、蓮は静かに頷いていた。
その視線だけが、俺の心を支えていた。
(これが修行の成果。俺はもう“無意味な無色”じゃない)
観客の声はまだ冷たい。
けれど胸の奥には、確かに熱いものが宿っていた。