痛みの中で
病室の悠真
白い天井を見上げながら、悠真は深く息を吐いた。
――あのダンジョンで人型スライムにやられてから、もう半年。
腹を貫かれたとき、全てが終わったと思った。
焼け付くような痛みと溢れる血。普通なら即死していたはずだった。
だが黒崎先生は異変を察知し、すぐに治癒の先生たちへ連絡していた。
黒崎が中へ入った直後、治癒の先生たちもダンジョンに入り、応急処置を施してくれた。
その後、治癒班に運ばれ学園で本格的な治療を受け――命は繋ぎ止められた。
臓器は大きく損傷していたが、残っていた部分を修復できた。
もし処置が少しでも遅れていたら、俺はここにはいなかった。
「……腕を失った颯馬は戻らなかった」
あのスライムの酸に溶かされ、骨も肉も完全に消えてしまっていたからだ。
回復魔法は“残っているものを癒やす”ことはできても、“失ったものを生やす”ことはできない。
だから颯馬の腕は、もう二度と戻らない。
生き残った自分と、片腕を失った仲間。
その現実が、悠真の心を深くえぐっていた。
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自己嫌悪
「……俺は、あんなに“無色”をバカにしてたのに。
結局倒れたのは俺で、透はまだ前に進んでいる……。
俺は、何をしてるんだ……?」
拳を握りしめる。
自分は力を過信し、油断していた。
その結果、仲間は腕を失い、自分はベッドの上で無力さを噛みしめている。
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黒崎の見舞い
扉が静かに開き、黒崎獅童が姿を現した。
悠真は慌てて身を起こそうとしたが、傷がうずき呻いた。
「無理に動くな」
黒崎は椅子に腰を下ろし、低い声で言う。
「……今回の件は、お前が力を過信し、油断した結果だ。
透を笑っていたくせに、結局倒れたのはお前自身だ。悔しくはないのか?」
悠真は視線を逸らし、唇を噛んだ。否定はできなかった。
だが黒崎は続ける。
「……お前が助かったのは、治癒の先生たちが駆けつけて処置をしてくれたからだ。
俺が連絡を入れていなければ、間に合わなかっただろう。
……それでも監督不行き届きだったのは事実。責任の一端は俺にもある」
その言葉に、悠真は思わず目を見開いた。
厳しいだけの男ではない――誰よりも生徒を見ている人だと悟った。
⸻
悠真の決意
「先生……」
悠真はかすれた声で口を開いた。
「俺……透に謝りたいんです。
無色だからって馬鹿にして……でも、本当は俺の方が何も分かってなかった」
黒崎はじっと悠真を見つめ、やがて頷いた。
「……謝るなら、その時が来たら自分の言葉で伝えろ。
透は甘くない。だが、耳を貸すだけの価値はある男だ」
悠真は深く息を吸い、拳を強く握りしめた。
まだベッドの上。だが心は、確かに前へと進み始めていた。