模擬ダンジョン実戦
黒崎の宣告
「三か月、お前たちはよく耐えた」
訓練場の中央に立つ黒崎獅童の声は、重みを帯びて響いた。
「だが鍛錬は机上で終わらん。本日――模擬ダンジョンに挑んでもらう。
訓練の成果を示せ」
俺、蓮、澪、琴音は一斉に頷いた。
緊張と高揚が入り混じり、胸の鼓動が速くなる。
⸻
模擬ダンジョン
模擬ダンジョンは訓練専用の施設で、本物のダンジョンを模して作られている。
痛みも疲労も現実と同じだが、致命傷だけは結界が防ぐ安全設計だ。
だが黒崎は言った。
「安全と思うな。お前らの力を引き出すのは“極限”だ」
石の扉が開き、俺たちは足を踏み入れた。
⸻
蓮の安定感
最初に現れたのは武装したゴブリン数体。
先頭に立った蓮が黒の剣を振るい、一歩進むごとに敵を斬り倒していく。
その正確無比な剣技に、敵は反撃の隙すら与えられなかった。
「……さすがだな」
俺が呟くと、琴音が笑って言った。
「安心して背中を任せられるよね」
⸻
澪の冷静さ
「透、肩切られてる! 治すね」
澪の声とともに緑の光が流れ込み、傷が瞬時に塞がる。
三か月前なら無駄に魔力を費やして倒れていたはずだ。
今の澪は、傷の深さを見極め、必要なときだけ癒やしを施していた。
「……冷静に選べるようになったな」
黒崎の声が遠くから響いた。
⸻
琴音の支援
「蓮、後ろ取られてる! ――押す!」
琴音が風を放ち、蓮の体を滑らせるように前方へ押し出した。
その加速を受けて、蓮の斬撃がゴブリンの首を正確に断ち切る。
「よしっ!」
琴音が小さくガッツポーズを作り、俺は思わず笑った。
以前のように味方を巻き込むこともなく、風は確かに仲間のために働いていた。
⸻
透の力
俺も負けてはいられない。
迫る敵の一撃を透明の壁で受け止め、そのまま反射して弾き飛ばす。
右手には透明の剣、指先からは弾丸のような光を飛ばし、敵を牽制する。
さらに仲間を囲むように結界を展開。
矢の雨が降り注いだが、すべて結界に阻まれて消えた。
「すごい……守られてる……」
澪の声に、胸が熱くなった。
体は重く、魔力が削れていくのを感じる。
だが――もう恐れはない。限界の先にこそ、自分の成長があるのだから。
⸻
黒崎の評価
核に相当する仕掛けを破壊し、模擬ダンジョンはクリアとなった。
黒崎は腕を組み、俺たちを順に見渡す。
「――ようやく“パーティー”と呼べる形になったな」
その言葉に、俺たちは顔を見合わせ、小さく頷き合った。
三か月前の俺たちでは到底できなかったことだ。
だが黒崎はすぐに声を引き締めた。
「透。お前の力はまだ奥が深い。今日の成果で満足するな」
鋭い眼差しが突き刺さる。