特別訓練の始まり
訓練1日目
学園の地下に設けられた訓練場。
石造りの広間には模擬戦用の魔獣が並び、魔力を感知して動き出す仕組みになっていた。
「ここで徹底的に叩き込む。逃げ場はないと思え」
黒崎獅童の声が響く。
その日から、俺たち四人の特別な訓練が始まった。
――だが初日は散々だった。
蓮だけが冷静に敵を切り伏せ、俺は力を引き出せず焦り、澪は必死に仲間を癒そうとしてすぐに魔力切れ、琴音は風の制御が効かず、味方まで吹き飛ばしてしまった。
「……バラバラだな。これでは仲間を守れん」
黒崎の冷酷な言葉が胸に突き刺さった。
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訓練の日々
•2週目
俺は「守りたい」と強く思う時に発動することを掴み、透明の壁――最強の盾を出せるようになった。
一方で澪は小さな傷でも全力で治そうとし、ついにその日の訓練中に力を使い果たして倒れ込んでしまった。
「これが本来の魔力切れだ」
黒崎は倒れた澪を見下ろしながら言った。
「意識を失い、回復にも時間がかかる。……お前らも肝に銘じろ」
澪は悔しそうに唇を噛んだが、それを境に無駄な治癒は減り、傷の深さや状況を見極める冷静さを身につけていった。
•3週目
俺は透明の剣を形作れるようになったが、まだ安定せずに消えてしまうことも多かった。
琴音は風で敵を吹き飛ばそうとして、俺まで巻き込んでしまった。
「狙いを定めろ! 敵と味方を同じ風で吹き飛ばしてどうする!」
黒崎に怒鳴られ、琴音は肩を震わせた。
その後は突風を絞り、敵の足を止めたり、仲間の背を押して加速させたりと、徐々に精度を増していった。
•1ヶ月後
俺は弾丸のような透明の塊を飛ばし、さらに短時間だけ結界を張れるようになった。
澪は仲間の体力だけでなく、精神的な疲労にも目を配り、癒やすタイミングを冷静に選べるようになった。
琴音は風を自在に「援護」と「加速」に使い分けられるようになり、蓮の剣撃をさらに鋭くする支援役へと進化していった。
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魔力切れと異質さ
訓練の中で俺も何度も魔力切れに追い込まれた。
視界が揺らぎ、体が鉛のように重くなり、立っているのもやっとになる。
本来なら――澪が倒れたように、その時点で意識を失い、最悪の場合は死に至る。
魔力の器を広げる唯一の方法は、「切れる直前のギリギリを何度も維持する」こと。
それは熟練者でも命懸けの鍛錬であり、常人には到底できない。
だが俺は――。
気絶もせず、死にもせず、その状態を自然に繰り返していた。
「……やはりお前は異常だな」
黒崎は低く呟いた。
「澪が示したのが普通の魔力切れだ。だがお前は、無意識に“魔力切れ寸前”を何度も超えている。……特別な存在としか言いようがない」
胸の奥で何かが脈打つ感覚がある。
まだ見ぬ何かが、自分の中に眠っている――そんな直感が確かにあった。
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三か月後
三か月が過ぎた頃、俺たち四人は少しずつ息が合うようになっていた。
蓮が前線を切り開き、琴音が風で支援し、澪が仲間を癒やし、俺が盾となる。
黒崎は厳しい表情のまま、短く言った。
「ようやく……“形”になったな」
透は守り、蓮は導き、澪は癒し、琴音は支える。
――四人の役割がかみ合い、初めて“パーティー”と呼べる姿になったのだった。