第1.章 第5話:無色の涙
この度は数ある作品の中から、本作を手に取っていただき、ありがとうございます。
「転生英雄の憂鬱~AIと歩む第二の人生~」は、現代社会の底辺から異世界へと転生した主人公が、AIとの出会いを通じて新たな人生を歩む物語です。
絶望の淵から始まる物語ですが、希望と成長の軌跡を描いていきたいと思います。
どうぞ最後までお付き合いください。
笑い声が遠ざかり、カレーの匂いもいつしか消えた。
部屋にはまた、あの耳の痛いほどの静寂が戻ってくる。
――僕は、独りだ。
その事実が、ずしん、という物理的な重みを伴って、僕の全身にのしかかってきた。
SNSで見た、友人たちの眩しい日常。
一年前に味わった、決定的な挫折の記憶。
窓の外から聞こえてきた、僕のものではない幸せな生活音。
それら全てが、ごちゃ混ぜになって、僕の頭の中をぐるぐると回り始める。
息が、うまくできない。胸が苦しい。何かに押し潰されそうだ。
「……ぅ」
喉の奥から、かすかな呻きが漏れた。
その時、頬に、つ、と生温かい何かが伝う感覚があった。
なんだ、これ。
指先でそっと触れてみると、それは濡れていた。涙だった。
泣いているつもりなんて、まったくなかったのに。悲しいとか、悔しいとか、そういうハッキリとした感情があったわけじゃない。
ただ、どうしようもなく、涙が出た。
色も、味も、理由もない。ただ、僕という存在の虚しさ、そのものが凝縮されて、零れ落ちたような。そんな、無色の涙だった。
モニターの黒い画面に映る自分の顔を見る。
泣いているのに、その表情は能面のように、何の感情も浮かんでいなかった。まるで、知らない誰かを見ているようだ。
ああ、もう、ダメだ。
何がダメなのかも分からないまま、僕はそう思った。
希望も、気力も、何もかもが削ぎ落とされて、空っぽの器だけがここにある。
底の底。
昨日までは、そう思っていた。でも、違った。
底だと思っていた場所には、さらに底があったんだ。そして僕は今、その本当の、光も音も何もない、本当の本当に、一人きりの場所に、たどり着いてしまった。
お読みいただき、ありがとうございました。
主人公の絶望的な状況から物語は始まりますが、ここからが本当のスタートです。次章からは異世界転生と、運命を変えるAIとの出会いが待っています。
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次回もお楽しみに。