第1章 第3話:褪せた記憶
この度は数ある作品の中から、本作を手に取っていただき、ありがとうございます。
「転生英雄の憂鬱~AIと歩む第二の人生~」は、現代社会の底辺から異世界へと転生した主人公が、AIとの出会いを通じて新たな人生を歩む物語です。
絶望の淵から始まる物語ですが、希望と成長の軌跡を描いていきたいと思います。
どうぞ最後までお付き合いください。
SNSを閉じてから、どれくらい経っただろうか。
僕はただ、ぼんやりと黒い画面に映る自分を眺めていた。幽霊みたいだ、と思う。血の通っていない、生きたしかばね。
ふと、視線をデスクの隅へ移す。
そこには、分厚い参考書の山が、まるで墓標のように鎮座していた。一番上に乗った赤色の表紙には、『大学入試 必勝問題集』という、今の僕を嘲笑うかのような文字が躍っている。
――ああ、そっか。あれが、始まりだった。
一年前。僕も、SNSの向こうの彼らと同じように、未来を信じていた。志望校に合格して、新しい生活が始まるんだと。何の疑いもなく、そう思っていた。
結果は、不合格。
それも、見事に全部。滑り止めだと高を括っていた大学からも、無慈悲な「不合格」の三文字が送られてきた。
『気にしなくていいから』
『一年、ゆっくりすればいい』
両親はそう言ってくれた。だけど、その声色の裏にある、どうしようもない失望の色を、僕は敏感に感じ取ってしまった。期待に応えられなかった罪悪感。隣の家の息子さんが、有名大学に合格したという噂話。
それらが、ずしり、と重い鉛のように僕の心に沈み込んで、身体からすべての気力を奪っていった。
一歩も、外に出たくない。誰の顔も、見たくない。
そうして僕は、この四畳半の城に鍵をかけ、引きこもることを選んだんだ。
あの参考書は、僕の挫折と敗北の象徴。捨てることもできず、ただ、そこにある。見るたびに、あの日の無力感を思い出させる、呪いのアイテムとして。
お読みいただき、ありがとうございました。
主人公の絶望的な状況から物語は始まりますが、ここからが本当のスタートです。次章からは異世界転生と、運命を変えるAIとの出会いが待っています。
更新は週2-3回を予定しております。応援、感想をいただけると励みになります。
次回もお楽しみに。