第1章 第2話:光る窓
この度は数ある作品の中から、本作を手に取っていただき、ありがとうございます。
「転生英雄の憂鬱~AIと歩む第二の人生~」は、現代社会の底辺から異世界へと転生した主人公が、AIとの出会いを通じて新たな人生を歩む物語です。
絶望の淵から始まる物語ですが、希望と成長の軌跡を描いていきたいと思います。
どうぞ最後までお付き合いください。
ぬるい水道水の味が残る口のまま、僕は再びPCデスクの椅子に深く沈んだ。
ギシ、と安っぽいキャスターが悲鳴を上げる。部屋の電気はつけていない。暗闇の中、唯一の世界との繋がりであるモニターだけが、ぼんやりと僕の顔を照らしていた。
マウスを握り、カチリ、と慣れた手つきでSNSのブックマークを開く。
開いた瞬間、目に飛び込んでくるのは、まばゆいばかりの「日常」の数々だった。
『サークルの飲み会、マジ最高!やっぱこのメンツだな!』
写真には、高校時代の同級生たちが、居酒屋の座敷で窮屈そうに、でも最高に楽しそうに笑い合っている姿が写っていた。僕が知らない顔もいくつか混じっている。大学でできた、新しい友達だろう。
『初任給で、親に飯奢ってきた!ちょっとは恩返しできたかな?』
別の同級生は、少し高級そうなレストランの料理の写真と共に、そんな誇らしげな一文を投稿していた。コメント欄には「偉い!」「親孝行だね!」なんて言葉が並んでいる。
スクロールする指が、ふと止まる。
それは、高校時代、少しだけ話したことのある女子の投稿だった。お洒落なカフェのテーブル。二つ並んだマグカップ。そして、彼女の指にそっと重ねられた、男物の大きな手。
「……そっか」
誰に言うでもなく、乾いた声が漏れた。
おめでとう、なんて気持ちは不思議と湧いてこない。ただ、心臓のあたりが、きゅうっと冷たくなるような感覚があった。
分かってる。
SNSなんて、みんな人生の「良いところ」だけを切り取って見せ合っているだけだ。この笑顔の裏で、みんなそれぞれ悩んだり、苦しんだりしているのかもしれない。
頭では、ちゃんと分かっているんだ。
でも、それでも。
この光る窓の向こう側で、みんな着実に前に進んでいる。
新しい人間関係を築き、自分でお金を稼ぎ、誰かと恋をして…。
それに比べて、僕はどうだ?
薄暗い四畳半。コンビニ弁当のゴミ。ほこりを被った教科書。昨日と同じ今日、そして今日と寸分違わぬ明日。
カチッ。
マウスをクリックして、僕はSNSのタブを閉じた。
途端に、目に映るのはがらんとしたデスクトップ画面と、そこに反射する自分のぼんやりとした顔。そして、今までモニターの音にかき消されていた部屋の「無音」が、耳に痛いほど響き渡った。
この光る窓は、世界と繋がるための窓じゃなかったんだ。
世界から、僕がどれだけ取り残されているかを、ただ残酷に映し出すための。
そんな、鏡みたいなものだった。
あとがき
第1章「底の底」をお読みいただき、ありがとうございました。
主人公の絶望的な状況から物語は始まりますが、ここからが本当のスタートです。次章からは異世界転生と、運命を変えるAIとの出会いが待っています。
更新は週2-3回を予定しております。応援、感想をいただけると励みになります。
次回もお楽しみに。