第1章:底の底
はじめまして。この度は数ある作品の中から、本作を手に取っていただき、ありがとうございます。
「転生英雄の憂鬱~AIと歩む第二の人生~」は、現代社会の底辺から異世界へと転生した主人公が、AIとの出会いを通じて新たな人生を歩む物語です。
絶望の淵から始まる物語ですが、希望と成長の軌跡を描いていきたいと思います。
どうぞ最後までお付き合いください。
チカチカと点滅する蛍光灯。
深夜のコンビニの弁当コーナーで、僕はいつも立ち尽くしていた。
色とりどりのパッケージが「選んでくれ」とアピールしてくる。ハンバーグ弁当、唐揚げ弁当、生姜焼き弁当…。どれも美味しそうだ。だけど、僕が手を伸ばせるのは、決まって一番下の段にある、黄色い『198円』のシールが貼られた弁当だけ。
今日も、選ぶふりをして、結局その一番安い「のり弁」を一つだけ手に取った。
レジで無言のまま会計を済ませ、外に出る。むわっとした夜の空気が肌に張り付いた。
万年床とPCの熱気がこもった、四畳半の城へ帰る。
プラスチックの蓋を開けると、白身魚のフライとちくわの天ぷら、それから申し訳程度のきんぴらごぼうが姿を現した。
味なんて、よく分からない。
ただ、空腹という名の穴を埋めるための作業。PCモニターの光だけを頼りに、黙々と箸を動かす。画面の中では、自分とは別世界の人間たちが、楽しそうに笑っていた。
あっという間に食べ終え、空の容器をゴミ袋に放り込む。喉が渇いた。
本当は、自販機でキンキンに冷えた缶コーヒーでも買いたい。だけど、130円という金額が、今の僕にはあまりにも重い。
仕方なくキッチンに立ち、ぬるい水道水をコップに注いで、一気に喉へと流し込んだ。
鉄錆びのような、なんとも言えない味が口の中に広がる。
「……何やってんだろ、俺」
誰に言うでもなく、言葉が漏れた。
高校を卒業して一年。引きこもりになり、バイトも続かず、親からの仕送りもだんだんと気まずくなって。気づけば、198円の弁当と水道水で命を繋ぐだけの毎日になっていた。
選択肢なんてない。
お金がないから、何も選べない。
選べないから、何も変わらない。
明日もきっと、同じ時間に起きて、同じようにPCを眺め、同じ弁当を食べ、同じ水道水を飲むんだろう。
そんな、色のない絶望感だけが、僕の心を支配していた。
モニターの光が滲んで見える。眠いのか、それとも…。考えるのも億劫で、僕はゆっくりと意識を手放した。
底の底。
僕の人生は、今、そんな言葉がぴったりだった。
第1章「底の底」をお読みいただき、ありがとうございました。
主人公の絶望的な状況から物語は始まりますが、ここからが本当のスタートです。次章からは異世界転生と、運命を変えるAIとの出会いが待っています。
更新は週2-3回を予定しております。応援、感想をいただけると励みになります。
次回もお楽しみに。