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とある教育ユートピアの図書館は

ここは誰が呼んだか「とある教育ユートピア」であると。ここの図書館は遊び人(健全系)が司書をやっていた。司書は何か真面目に仕事をするという事ができない質だったが、遊びながら仕事をしても良いという条件付きで、ここに居着いている。


昼間はゲームに漫画にと遊ぶことには事欠かない。たまにとあるワールドの住人達に絡んでTRPGやボードゲームなどに誘ったりしてる。TRPGは基本オンラインでしか遊べない事が多いので、リアルでTRPGをする事に楽しくてしょうがない。ゲームマスターの準備をする事に生き甲斐を感じてる。


遊ぶ以外は、返却された図書館の本を並べ直したり、発送用の書類の住所シール貼りなどの作業をしたり、住人達の授業内容に沿った本棚作りなど、細々と忙しい。


遊び人の司書にとって、このとあるワールドは実に天国のような快適な場所だった。MMORPGのようなオープンワールドな空間に、つかつ離れずの微妙な距離感で生息できる。住人達はしっかりとした共同体の住人だが、司書はそれを遠巻きに眺める距離にいた。それくらいの距離感で人と付き合えるのは良い。


MMORPGで人と接しなくとも、同じ空間にいるだけでいいのだ。そして、時々助け合えるのがいい。


遊びながら働き、給料は出ないのだが、給料が出るとあるワールドの外の世界よりも、衣食住困らず、やりたいことは大抵何でもできる設備が整っており、遊びに誘う人にも困らない世界は実に晴れ晴れとしたユートピアだった。


世間では遊びながら仕事をするというのは、なかなかできない事だ。根っから遊び人気質の司書には、集中して仕事をするという事ができないし、ましてや真面目な「職業人」などできない気質だ。


司書は図書館の一角の10畳程の畳の部屋に住んでいた。学生達は、ここから少し離れた学生寮に住んでるのだが、司書は図書館住み込みだった。学生達が寝る時間は閉まってる事になってるのだが、実は24時間営業だった。教授達がたまに訪ねて来るからだ。


司書は遊びながら仕事をするので気まぐれだが、学生達には秘密裏に写本の管理などもしてたし、レファレンスの相談にも乗っていた。


「人生死ぬまで暇潰し」とばかりに生きてきたもので、レファレンスやブックガイド等には多少の役に立った。


ここでの教育内容は実に濃厚なので、本の選定に関してはレファレンスとブックガイドが実に役に立つ。暇潰しだって無駄ではなかったのかも知れないと思う。


講義の内容に沿った本棚作りや、参考資料を用意するのもきめ細かい支援のひとつだ。


そうやって、ここの学生が伸びる事の役に立ってる事は実に喜ばしい事だった。


人が成長するのを眺めているのは、どんな遊びよりも楽しいことはあるもんだと思う。


給料は出なくても(生活必需品は現物支給)、生き甲斐には代え難いし、自由度は高い。


ここの蔵書は一部を除いて、全てデジタルデータ化されており、図書館に赴かなくてもダウンロードで貸し出しが可能だが、やはり図書館に足を運ぶ事で得るものは多いせいか、リアルな図書館で紹介された本をデジタルで借りていく住人は多いのだ。


オンラインとオフラインの図書館の利点を活用してるみたいだ。貸し出しの半数はオンラインなので、如何に興味を持って貰えるかなどの「見せる本棚作り」が欠かせない。


そして図書館の閉館後の時間は、学生達には半ば秘密裏なのだが、写本の管理などもやっている。和紙を貼り付けて修繕する手伝いみたいなものだが、リアルな写本に触れるなんてこんなゲームのような体験はそうそうできるものではない。


図書館で遊びながら働くことで惹かれたのは、このような非日常の体験にゾクゾクしたからだ。学芸員か学者か修復の専門家でもなければ、写本やグーテンベルクの聖書が出版された後の100年後程の時代の印刷本の初版などに触れることは滅多にできないからだ。


ここでは世間ではろくでなし扱いの司書もこういった事をさせてくれるのは目を見張るものがあると思う。


これらの写本や印刷本の初版などは外国語で書かれてるので読めないがな。


ここには強烈なAI翻訳装置(VRゴーグルのような見るものを翻訳してくれる眼鏡)があるので、デジタルデータ化された本は大抵の内容を知ることができるのも素晴らしい。筆記体で書かれた外国語の手稿などどうやって読むのか見当もつかなかった。


何でも、この「とある教育ユートピア」を作った狸は、チョコレートバーを金のインゴットに変換する権能を持っており、それで集めたとか何とか。そのような噂が囁かれてる。そもそも、この「とある教育ユートピア」を建設したのも、山奥の打ち捨てられた神社の御祭神の狸にそのような「ご利益」があったからだと。


写本の修復は秘密裏なのだが、学生の貸し出し向けに沢山の写本の「レプリカ」を用意していた。ガラスケースに入って展示されたものではなくて、臨場感のあるレプリカである。これに触る事で、写本はどんな質感だったか体験する事ができる。


写本の「レプリカ」の貸し出しは結構大人気で、下手なおもちゃよりも楽しいのかも知れない。中世の羊皮紙写本だけでなく、パピルスもあるし、金装飾の聖書(主に典礼用?の中世ギリシャ語写本)などの「レプリカ」もある。


こういった心意気が実に司書は気に入ってる。


この図書館は体感型で、中世や近世の「書斎」などを再現したスペースを設けてる。写本を持ち込んで、どのような気分で研究したかなどを「体感」する事ができて実に楽しいだろう。

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