自慢の息子
カタン
「重かっ……あれ?」
「何も乗ってない?」
「ふふ、バレちゃったみたいね」
「…ドーナツとドリンクはこっちだ」
「!
お父さん」
「いつ来たの?
さっきまでいなかっ……」
た、と言いかけたヨルハが少し考え込む。
そして俺の目を見て。
「そういえば、いた。
後ろの方、10分前くらい…」
「10分前?
おぼん受け取りに行く前で…あ」
こそこそと会話をして、その時を思い出すと。
確かに後ろに黒髪のふわっとした男性がいた。
服装も父の服…だった気がする。
「2人が持つにしては重いからな。
気をつけて食べなさい」
「ありがとう、お父さん。
いただきまーす」
「いただきます」
空いていた後ろの席から椅子を拝借して。
父と母、そしてその正面に俺たちで座ってドーナツタイム。
人数が増えてもドーナツサービスでちょうどいい量で。
「いちごの方、ふわっふわ。
ヨルハも食べる?」
「じゃあ、ユハはこっちどうぞ。
甘さ控えめだけどチョコクリームが入ってて美味しいよ」
「ん、じゃあいただきます」
もぐ、とひとくち。
甘いと思ったのは中のクリームのようで。
周りのチョコはあんまり甘くなく、これなら食べやすい。
…けれど、やっぱり子供の口。
父と母はとっくにドーナツを食べ終えて微笑ましそうに…見つつ写真を撮っている。
「お父さん、それにお母さんも。
いつまで撮ってるの」
「バレちゃった。
これね、実は動画なの。
後で見返せるように」
「ああ、家族の記録だな」
「そう言って、お父さんやお母さんは映らない動画ばっかり撮ってるでしょ。
俺たちも撮るよ」
「いいの?
じゃあ撮ってもらおうかしら」
「…え」
それはそれで、とちょっと反応に困る。
仕返しみたいに撮ってあげるって言ったのに。
「それなら、誰かに撮ってもらうのは?
もちろん写真で。
あのお姉さん…とか」
ちらりとヨルハが視線を送るとにこにこと近づいて来る。
…あれは多分、ヨルハが見る前から準備してたな…。
「写真ですか?
もちろんいいですよ」
「あら、じゃあお願いします。
ほらユハにヨルハ、こっちに座って」
「はあい」
いつかのように膝に座って写真撮影。
にこにこしているヨルハと違って子供っぽくなく写る俺は、笑顔を覚えた方がいいのかも、と思ってしまうほど。
まあ覚えたところで両親がさらに喜ぶだけな気はするけど。
「ありがとうございました」
「いえいえ、またいつでも言ってくださいね」
その会話の後、まだ終わってなかったドーナツを頬張り写真を見てきゃっきゃしている2人を眺める。
…自分の写真でもあるのに、双子ってやっぱりすごいな、と。
「ヨルハ、そういえばこの辺の教会って入れそう?」
「うーん。
俺たちだけだとだめじゃない?
親同伴…か、散歩のついでで行くとか」
「散歩のついで…って言っても、今日のメインは学校の下見だし」
だいぶ、早いけれど。
「じゃあまたの機会にってことで。
ごちそうさま」
「早いな、さすが」
「早く食べないといけない時が多かったし。
…まあ、それはユハだって同じだったろうけど?」
じっと視線を送られるも、なんとなく逸らしてしまう。
元々、俺は食べるのが得意ではなく。
ちょっとの時間なら食べなくてもいっか、と虚無を食べて過ごすことも多かった。
「それはさておき。
食べ終わったらほんとに学校行かないと」
「まあ、それが目的だし、ね。
あ、ジュース飲む?」
「飲む」
ヨルハは適度に飲んでいたらしいジュースをもらい、なんとかドーナツを完食する。
…もちろん、その間両親は写真や動画を撮り続けていて。
よく飽きないな、と少し思う。
「ごちそうさまでした。
お母さん、お父さんとヨルハ、お待たせ」
「もう食べ終わっちゃったのね…」
「食べ終わってからの方が残念そう…」
「さすが、俺たちの両親」
「自慢の息子たちだからな」
「お父さん、それまだ言うの早いから、俺たち10歳」
「ふふ、何歳でも自慢の息子になるのよ。
さて、もうちょっとおしゃべりをしたら学校に行きましょうか」
「はーい」
もうちょっとおしゃべりをして、というところに全て詰まってるなと思いつつ。
学校に向かうまでおしゃべりをしていたのだった。