みんな双子推し
ガチャリ、と玄関の扉が開いた先は知らない世界。
…もちろん、俺たちだって赤ん坊の頃に外に連れて行ってもらったり移動で外を眺めたことはあるけれど。
きちんと自分の足で歩き、見て回るのはこれが初めて。
「ヨルハ、あれ何?」
「さあ、お母さんに聞いたら?」
「簡単に教えてもらったらもったいないじゃん…」
「じゃあなんで俺に聞いたの?」
「知らなそうだったから」
「……」
それ、聞いた意味ある?と顔で訴えるのを見ないふりして。
そのまま母やヨルハから離れすぎないくらいに散策をする。
あれは何、これは何、と近寄っては触れてみて。
たまに、動くものに驚いて。
本当の10歳のよう…か、それ以上に初めての外を楽しんだ気がする。
「どう、満足した?」
「まあまあ。
お母さんあれ、甘いの食べたい」
「甘いの…ああ、ドーナツ?
まだユハは小さいのしか食べられないと思うけど……」
ちょっと心配そうに見つめる母にそれでも、と頷くとちょっと笑って。
頭を撫でられた後手を繋いで歩き始める。
「ヨルハはどうしよっか」
「ヨルハはチョコのやつ」
「はーい。
ユハ、おんなじのじゃなくていい?」
「おんなじの!…と、いちごのも」
「じゃあヨルハにもね。
はんぶんこするなら大きいのにしちゃうけど?」
「ヨルハ、半分食べる?」
「ユハが半分食べられるなら。
この間あんなに美味しいご飯残してたから」
「あれはたまたま!
今回はドーナツだから!」
「ふふ、じゃあ決まりね。
……後で写真もたくさん撮らなきゃ」
ぼそ、と真剣な顔で呟きつつ店へと入っていく母。
俺たちが10歳になっても、というより。
10歳になって色々なところへ出かけられるようになったからか、余計に写真撮影を楽しんでいるようだった。
「あら、いらっしゃいラティルさん。
今日は可愛いリュシエールも一緒?」
「こんにちは!」
「かっわいいわねぇ、さすがリュシエール。
おまけしておくから欲しいの言いな?」
「ん!」
「俺は、これ」
2人でチョコといちごを指すところころと笑って。
一緒につけてあげようね、なんて言ってくれる。
…これは、このお店だけのサービスではなく。
どこのお店でも同様の出来事が起こり、すごいところだと買ったものが半額になったりする。
「ほんと、リュシエールって神聖視されてるな」
「されてるね。
俺たちだけじゃないみたいだけど」
と、ヨルハが言う通り。
辺りを見回せばちらほら同じ顔の2人組が見える。
歳の頃は俺たちが一番若い…というより幼く。
他は20歳とか、16歳とかに見える大人ばかりで。
「全員になんかしらのサービスする店、すごいな」
「街を上げて……というより国全体がそうみたいだからみんなやるんじゃない?」
「これなら他国からすごいこと言われてそう」
「例えば?」
「リュシエール国とか」
「ありそう。
…さすがに国名をリュシエールにするのはないだろうけど…」
「こんなに双子優遇の国ってことは神も関係してそうだけど」
「してそう、それはしてると思う。
だってほら」
すっとヨルハが指をさした辺りを見ると像が飾られた教会があり。
像には双子っぽい揃いの天使が描かれている。
「国も神もみんな双子推し…」
「そう考えたら、俺たちの両親ってなるべくしてなったのかも」
「双子の親に?」
「双子推しに。
これだけ双子人気なら、多分両親が小さい頃からずっとそうだろうし……」
「なるほど、双子教育…」
「全部想像だけどね。
そうだとしたら分かるでしょ」
「わかる、すごいわかる。
あ、ほらあそこおばちゃんが何もないのに双子に野菜あげてる」
「もう国全体どころか近くにリュシエールが通ったら何かをあげる…ってなってるのかも」
「嬉しいような怖いような」
「ドーナツサービスに喜んでる俺たちはなんでも喜んでいいと思うけどね」
確かに、と頷くとちょうどドーナツの準備が出来たようで。
取りに行くとまたドリンクがサービスになっており。
微妙な顔をしつつ、俺たちはやたらと軽いお盆を母の元へ持っていくのだった。