美味しいご飯
バタン、と両親が部屋を出て行った後。
残された俺たちでさっきの会話から得た情報を整理していく。
「まず、俺が双子の兄。
んで名前がユハ」
「で、俺が双子の弟。
名前はヨルハ」
「ってことでとりあえず今世も男と。
よろしく相棒?」
「よろしくよろしくってそうだ。
せっかくだからお兄ちゃんに聞きたいことがあったんだけど」
「はいはい?
お兄ちゃん呼び早いな」
「記念だし?
…初対面あれでよく俺ってわかったなっていう」
「なんとなく」
「なんとなく…?
さすが相棒」
「手元にペンタブもなければスマホもないのによくあの発言出たな、とは思ってる。
というかほんとに作業途中だったんだけどな……」
「それ、ほんとにそれ。
イベもさぁ、まだ走り途中で……」
「るりえ…」
「るりえな、ほんと…。
ユハあと何万だった?」
「俺は〜……」
「なに、どした?」
「あと……5千の記憶が………」
「それは悔しい。
神に直談判して推しだけ手に入れに行こう」
「今回のるりえぜっったい可愛いしかっこいいし天才だったから特効もめちゃくちゃ引いてさぁ……」
「引いた引いた。
むしろそれで課金したまである」
「ある!!
すごい、ある……。
あともう1万あればるりえゲットして寝てたのに…」
「いや、待って?
俺作業してましたけど?
オートしながら!」
「俺もさ、最初オートだったんよ。
でもほら、推しはやっぱりオートに頼りたくないなって…こう」
「わかる、わかるけど!
作業通話してたよな?
途中黙ってたから集中してんだなって思った俺の気持ち!!
そしたら俺も中断したわ!」
「やっぱ神に直談判」
「しよう、しないと気が済まない。
教会行く?」
「行く、行こう。
何歳くらい?」
「今何歳だろ、3とか?
…だったら、10まで待つ…か…」
「さすがに6とかで行かせてくれそうじゃない?
双子ガチ勢の親だし」
「あー、小学生で?」
「そうそう、いけるいける」
「んじゃ、頑張りますか、推しのために」
「推しのために!!」
…とは、言ったものの。
この国どころか俺たちの両親のことも近所のことも知らない俺たちでは教会がどうとかも分かるはずがなく。
絵本や文字が少ない小説なんかで勉強することから始めることになった。
「…これは?
アー」
「いや、エーっぽくない?
ユハ得意でしょ」
「いや俺英語得意じゃないからね、ほんとに」
「推しのライブのためって海外行ってた人……?」
「そうだけど、翻訳先生がいたからさぁ……」
「…あー、じゃあ今のまるっとなしで」
「はい」
という具合で、進んでは前のエピソードを話し始めて中断、または後ろから聞こえる嬉しそうな声に気を取られて振り向くなど様々な要因で勉強はあまり進んでいない。
「あー、ついでに親の仕事場とか行けたらいいのに」
「なんのついで?」
「写真撮影」
「まあほら、俺たちと一緒で推しと撮る、それだけを生きがいにしてる人いるから……」
「職場で推し崇めるのはないな、確かに」
「まあ俺こっそりぬい連れてってたけど」
「うわ羨まし」
「ぬい、いいよ……あれはね、天才」
「わかるけど、ちょっと恥ずかしくない?
出す出さないは置いといて」
「そう?
あんまり人は自分のこと見てないと思ってるからいける」
「…いけ、たかなぁ…。
次があったらやってみるか」
「みるべき。
…ってそうじゃなくて勉強と今後の話だけど」
「うん、なんかある?」
「もうちょっと、両親と会話を試みよう」
「んまあ、そう……」
「このまま行くと10歳までもうちょいだし双子の会話尊い〜〜で終わるから」
「そうなんだよなぁ…うん。
初会話なんだっけ」
「揃って笑ったらテンション上がった両親が写真撮りまくってた」
「それ違う、ついこないだ。
今もあんま変わらないけど」
「えー、じゃあ…これ美味しい」
「それだ、それそれ。
この国特産なのか分かんないけどやたらご飯が美味い。
美味すぎてつい出たよね」
「出た。
それで張り切った母がたくさん作って……」
「5日間連続だっけ?」
「10日くらい見た気がする」
「…それで、安易に美味しい美味しいって食べるのは控えようってなったんだっけ」
「そう。
でも美味しいんだよなぁ、ご飯」
「美味しい。
修羅場で飲んでたエナドリ並」
「あれそんな美味しいと思ってたんだ…怖…」
「そんなに…?
なんかやるぞって気になるし美味くない?」
「必要に駆られて飲む味」
「……まあ…そう…」
微妙な前の記憶を思い出しつつ、なんとか勉強や両親との会話を試み。
少しずつ前に進むことを目標にした俺たちだった。