6. イルゼの魅力(※sideウェイン)
「皆が私たちのことを噂しているそうですわ。身分の差を越えた真実の愛として。ふふ。なんだか恥ずかしいですわね」
「ふ、そうか」
「王太子殿下は愛するイルゼのために、政略結婚するはずだった長年の婚約者を捨てたって。真実の愛の力は偉大だって、皆が言っているそうですわ。私の友人のローザがそう言っていましたの。あ、殿下は覚えていらっしゃるかしら?同じ学園にいましたのよ、ローザ・マコーミック男爵令嬢ですわ」
「ああ、君の親しい友人だね」
「ええ。ふふ」
王太子の私室で、二人きりの幸せな時間を過ごしながら、俺は愛妻の顔を見つめていた。
“捨てた”。そうだ。俺は確かにフィオレンサを捨てたのだ。
イルゼの言うとおり。偽りの愛ではなく、真実の愛を選んだ。
イルゼは可愛らしい。フィオレンサももちろん皆が認める美貌の持ち主だった。品のある美しさに加え、立ち居振る舞いの完璧さ。いかにも教養ある公爵家の令嬢といった感じだった。
それに比べれば、イルゼにはまだまだあどけなさを感じる。不安定な頼りなさ。美しい、というよりは可愛らしいという言葉がピッタリだ。ふとした表情はとても幼くて、まるでものを知らない純真無垢な子どものようだ。淑女然として会話をしていても、時折その幼さが顔を覗かせる。そしてそんな彼女の幼さとはアンバランスなほどの、豊満な肢体。凹凸のくっきりとした色気のある体つきは、彼女の無邪気さや可愛らしさとのギャップがすごくて、俺はあっという間に虜になったものだ。
フィオレンサならば、完璧な王太子妃となっただろう。幼少の頃からしっかりしていて、いつも俺をサポートしてくれていたのも事実だ。
だが、所詮それは公爵令嬢としての責務だからこなしていただけのこと。そこに愛はなかった。無邪気なイルゼから度々聞かされた俺の知らないフィオレンサの話には、驚かされたものだ。
「……。」
俺は改めて目の前のイルゼを見つめる。二人の真実の愛を周りに祝福されている喜びを語る、可愛らしい俺のイルゼ。波打つ艶やかな栗色の髪。深いグリーンの潤んだ瞳。真っ白で吸い付くようなしっとりとした肌。小首をかしげて俺を見つめて話す時の、庇護欲をそそる幼さ。
イルゼの全てが、可愛くてたまらない。
やはり間違ってはいなかった。俺がこの子に飽きたり、この子を嫌いになったりする日は永遠に来ないだろう。これだけずっと見つめていても少しも飽きることがない。ようやく手に入れた。真実の愛に満ちた幸せな生活。
俺たち王太子夫妻の幸せは、きっと民の幸せにも繋がるだろう。この愛に満ちた生活を、広く国民にも伝えていくのだ。
愛は素晴らしいものだ。
「……イルゼ」
「はい?殿下」
「……こちらへおいで」
俺はイルゼをベッドに誘った。
「……ま、まぁ、殿下……。まだお昼ですわ……」
イルゼが察し、愛らしく頬を染める。その恥じらう姿がより一層俺の熱を誘う。
「いいだろう、昼だろうと夜だろうと。四六時中お前を抱きしめていたいんだよ、俺は。……おいで」
「まぁ、ふふ。殿下ったら……」
イルゼは恥ずかしそうに俯きながらも、素直に俺の腕の中に身を委ねてきた。