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王妃になりたかったのではありません。ただあなたの妻になりたかったのです。  作者: 鳴宮野々花@書籍4作品発売中


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20. 再会

(……やっぱりたくさん集まってる。よかった、ジェレミー様がそばにいてくださって……)


 隣にいるジェレミー様の腕に通した指先に、私は無意識に力を込めた。ジェレミー様が私を見つめて微笑む。


「誰よりも綺麗だよ、フィオレンサ。……大丈夫、安心していて。私がついているから」

「……ええ」


 頼りになるその言葉に、胸がときめく。素敵な人……。こんな人に選んでいただけるなんて、私は幸せ者ね。




 屋敷まで馬車で迎えに来てくださったジェレミー様は、ご自分がプレゼントしたドレスを着て出てきた私を見て、息を呑んでいた。


『……最高に美しいよ、フィオレンサ。まるで女神だ……』


 大袈裟な物言いに、思わず笑ってしまったものだ。でもたしかに、ジェレミー様が今日のためにと贈ってくださったこの澄んだ水色のドレスは、透明感があり、派手すぎず華やかでとても美しい。まるでおとぎ話のお姫様のような気分になる。


 私は緊張しながら、ジェレミー様と共にパーティー会場である王宮の広間に入っていった。






 私たちが中に入ると、そこかしこで楽しそうに談笑していた高位貴族の方々が、一斉に静まりこちらに注目した。まぁ……、とか、素敵……!、とか、あちこちからヒソヒソと囁く声が聞こえてくる。……よ、よかった。大丈夫。今のところ、誰からも妙なことは言われてなさそう。もちろん「ほら、王太子殿下から捨てられた可哀相な公爵令嬢が来たよ!」なんて無作法に大声で言うような人は、この場にいるはずがないのだけれど。


「おや、もう王妃陛下とステイシー王女がいらっしゃる。ご挨拶に行こうか、フィオレンサ」

「え、ええ……」

「ふふ、緊張しているの?」

「ええ、それは、もちろん……」


 王妃陛下に対してではなくて、周りの視線に対して、ですけれど。


 それに。


「……っ、」


 王妃陛下とステイシー王女の方を見た時、視界の端にあのお方の姿が飛び込んできた。そしてその隣に立つ、真紅のドレスを着た方の姿も。


 緊張で喉がゴクリと鳴った。だけど私は、彼の方を見なかった。堂々と、真っ直ぐに。王妃陛下の方だけを向いて、背筋を伸ばし口角を上げて、ゆっくりと歩いた。隣にいるジェレミー様の体温を感じながら。

 大丈夫。普通にしていればいいの。全てはもう過去のこと。私にはこの人がいる。


「遅くなってしまいました、申し訳ございません、王妃陛下」

「まぁ、構いませんことよ。お久しぶりね、ヒースフィールド侯爵令息に……、まぁ、フィオレンサ……」

「ご無沙汰しております、王妃陛下」


 私は王妃陛下にカーテシーをした。何とも言えない切なげな顔で、王妃陛下は「来てくれてありがとう、フィオレンサ」と言ってくださった。やはりご自分の息子と破局した私を招くことに、思うところはあったらしい。


「ステイシー王女殿下、ご無事の帰国をお喜び申し上げます」

「お帰りなさいませ、ステイシー王女殿下」

「まぁっ、ありがとうございます。お久しぶりですわ、フィオレンサ様、ヒースフィールド侯爵令息様!」


 王妃陛下が見守る前で、私とジェレミー様はステイシー王女にもご挨拶をする。相変わらず溌剌としていてお元気な方だ。私たちはそのまましばらく、ステイシー王女の留学先でのお話を聞きながら会話を楽しんだ。


 ……さてと。


 他にも王女殿下へのご挨拶をしたくて待っている方々がいる。来たばかりであまり長話をするわけにもいかない。会話が途切れたところで私たちは軽く挨拶をし、一旦離れた。


「……。」


 次は、あの方々だ。ずっと目を逸らしていたけれど、もう見ないわけにはいかない。指先が冷たくなってきた。


 きゅ。


「!」


 温かい手でその指先を握られ、顔を上げると、ジェレミー様がこちらを見て微笑んでいた。


 大丈夫。


 そう言っているようだった。私は微笑み返し、そのまま数歩歩いて、ウェイン殿下の前までやって来た。斜め後ろで、ジェレミー様が私を見守ってくださっている。


「……フィオレンサ」

「ご無沙汰しております、ウェイン殿下、イルゼ妃殿下。この度はステイシー王女殿下のご無事の帰国、誠におめでとうございます」


 ……あ。


 あら?……案外、平気かも。


 私は再びふわりとカーテシーをしながら、そう思った。


「……あ、ああ。ありがとう、フィオレンサ。……久しぶりだ。今夜はまた……」

「貴族学園でお目にかかって以来ですわねぇ!お久しぶりですわ~フィオレンサさん!お元気そうで何より」


 ウェイン殿下が何か話そうとなさったような気がしたが、イルゼ王太子妃がずいっ、と前に出て来て私にそう言った。その王太子妃らしからぬ態度と口のきき方に、私は面喰らった。


「は、はい。お久しぶりでございます」

「随分お幸せそうねぇ?そちらの方は……」

「ヒースフィールド侯爵家のジェレミーです。ウェイン殿下、イルゼ妃殿下、ごきげんよう」

「あぁ、そうそうっ!覚えていますわ!ご令嬢方に大人気でしたわよねぇ。おほほほほ」


 そのままジェレミー様がイルゼ王太子妃の話し相手をしてくれているのを、私は一歩下がって見ていた。


 ウェイン殿下は話している二人の向こう側から、そんな私のことをずっと見つめていた。




 



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