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1話

「へぇ、行方不明のガキがねぇ」

「ああ、昨日今日で3人だと。うちのカミさんは心配性だから、子どもだけで外に出せなくなったよ」

「そりゃ一大事だなぁ」


 赤いレンガの床の上に質素な木のテーブルが並ぶ騒がしい酒場。

 壁には沢山の紙が乱雑に張り付いている。

 服装も人種も様々な男女が席について食事したり話し合ったり、壁の紙を眺めたりと各々自由に過ごしていた。


 その中で、店主とカウンターで話す男がひとり。

  (うなじ)がスッキリと見える短い金髪、白い肌、そして紅い瞳が印象的な男らしい美形だった。外見年齢は20代半ばといったところだ。


 適当な相槌を打ちながら金の液体で満たされたガラスのジョッキを受け取ると、上品そうな見た目に似合わず豪快に傾ける。喉の動きと共に液体が体内に入っていく連続音が響いた。

 中身が全て、その形の良い口に飲み込まれていく。

 

 満足げな息を吐き、緩んだ口元を手の甲で拭う。両耳を飾る、黒い金具の先についた青い玉が揺れた。


「はー、うめぇ。仕事の後の酒うめぇ!」

「ったく、カズユキ。お前ってやつは本当に話を聞かねぇな」

「聞いてるさ。でも今更だろそんなん」


 カズユキと呼ばれた男は頬杖をつきながらジョッキを返す。おかわりを注文することも忘れない。


 体格の良い店主はカズユキの言葉を聞くと、腰に手を当てて溜息をついた。その陰った顔の鼻の上を横断する傷からは、かつて冒険者だった時の名残がうかがえる。


 この街の治安は良いとは言えない。

 実際に、「今更」なのが悲しいところだった。

 

 ここはヒエン。ネンガク帝国のアシシリ領に属す街だ。

 価値のある鉱石が取れる山々があり、そこには食用になる動物や獰猛な魔獣なども多く生息している。


 そういった街には、様々な場所から冒険家や狩人などが集まってくるのだ。

 彼らはしばらくここに留まるが、目的を果たすとまた別の場所に移動することが多い。

 人の出入りが多いため、どうしても不審な者を見落としがちになってしまうのが欠点だ。

 

 カズユキは目の前に並んだ料理に嬉しげに目を細め、まずは肉をフォークで刺す。


「領主には伝わってんだろ? 見回り騎士とか増やしてなんとかするさ」

「その見回りにお前も参加しないかと言ってるんだ。ほら、これ」


 ナイフで丁寧に肉を一口サイズにしているカズユキの目の前に、店主はまだ白く新しい紙を突きつける。

 口に肉を放り込みながら、紅い目が文字を追って動いた。


「団体行動は面倒だ」


 紙を指で弾き、要らない、と手を振った。


「だいたい、時間取るくせに報酬少なすぎなんだよ。せめて原因を突き止めたらボーナス寄越すとか書いとけ」


 この店では、冒険家や狩人、場合によっては魔術師などに何か依頼したい場合の仲介を行っている。壁一面に貼ってある紙は全て依頼書だった。内容は、魔獣退治などの危険なものから鉱石の採取、家業の手伝いなど様々だ。


 もちろん報酬が出るため、食事のためではなく仕事のために酒場にやってくる者も多い。条件に納得すれば、依頼主と直接取り引きをする。


 常連になれば店主が合いそうな仕事を斡旋してくれることもあるし、客の方から直接依頼が入ることもある。


 しかし、カズユキのように気に入らなければそこまでだった。


「たく、住んでる街の平和を守るためだろう?」

「慈善事業じゃねぇんだか……っ!?」


 話が出来たのはそこまでだった。

 

 地の底から鳴り響くような野生的な雄叫びが店を揺らした。

 

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