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18話

 赤い絨毯の敷いてある廊下に出た。いくつか扉があり、部屋が並んでいるのが分かる場所だ。

 そこの一室に入る予定をしていたのだが、丁度目的の人物が部屋から出てきた。


 トーマと同じく白と金の制服を着ている、足の長い男性。

 深い緑色の瞳の右目、オールバックにした銀色の短い髪。左眼は黒い布ではなく眼帯で覆われていたが、間違いなくこの男だ。


(あれ? この人、なんか見たことあるような……)


 ミナトは妙な引っ掛かりを覚えて口を開こうとしたが、その男が開けている扉から出てきた人物を見て口を閉じた。


 後頭部に見える金色の髪飾りで青い髪をひとつ括りにした、紫の瞳の美少年だ。


 この国の第二王子、名前はケンリュウ。

 トーマが頭を下げるのに合わせてカズユキたちも頭を下げた。


 ミナトだけは相手が誰なのか知らない上に、第二王子の透き通るような美貌に見惚れて何も出来ずに立っていた。

 隣からカズユキが「この国の第二王子だ。」と耳打ちすると、弾けるように目を見開く。


「え!? 王子さむむぅ!」


 声を出すことを止めることが出来ず、広い廊下に大音量が響き渡る。大きな手に口を覆われてそのまま頭を下げさせられ、再び固まった。

 なんとかミナトが目線を上げると、カズユキもトーマも大笑いしている。

 コウは眉間に皺を寄せて警戒するように体を身構えている。

 ケンリュウは長いまつ毛を扇ぐように目を瞬かせてミナトを見つめていた。


 つまり、今、ミナトの頭を抑えているのは。


「悪いなセイゴウ。まだ礼儀とかなんも教えてないんだ。……こないだぶりだな?」


 笑いを収めたカズユキが、浮かんだ涙を人差し指で拭う。昨夜、命を狙われた相手に頭を掴まれて冷や汗を流すミナトを、背に庇うように間に入った。


 すんなりと手を離したセイゴウと呼ばれた男は第二王子近衛騎士隊長。トーマと同じくカズユキと同期で、自分にも他人にも厳しい堅物だった。


 彼は気難しそうな顔でカズユキを一瞥する。何故お前がこんなところにいるんだ、と片目が語っている。

 それから、後ろでにこやかに様子を伺っているトーマの方へと視線を移した。


「お前かトーマ」

「お互い、確認したいことがあるんだろう? ケンリュウ殿下にはしばらく私がついているからゆっくりしてくれ」

「余計なことを」


 カズユキから今回のあらましを聞いているトーマの柔らかい目と、セイゴウの鋭い目がぶつかり合う。友好的には見えないその様子に、ミナトは先程冷え切ってしまった手で無意識にカズユキの背の布を掴む。


 すると、大丈夫だと言うように肩を引き寄せられた。


「トーマが、私を?」

「よろしいでしょうか?」


 ふたりの雰囲気には動じないケンリュウが、空気を動かした。トーマの微笑みに対して、精巧な人形のような表情で頷く。


「ああ、今から剣の稽古をつけてもらう予定だったんだ。相手をしてくれるか。ところで」


 涼やかな声で話しながら、宝石のような紫色の瞳が真っ直ぐにミナトを映す。


 本当の子どものようにカズユキに支えられていたミナトだったが、その視線を受けると急激に羞恥心が襲ってきた。

 背中に隠れたくなるのを耐え、腕の中から出て自分で立つ。


「カズユキ、そちらは?」

「私の養子のミナトです。年齢は殿下と同じでございます」

「お、お初にお目にかかります」


 目上の人間にする挨拶の言葉をなんとか捻り出したミナトは、ようやくまともに声を出して頭を下げる。


 ケンリュウはミナトの目の前までわざわざ数歩近づいて、膝につきそうなまでに下げた頭を上げさせる。真っ直ぐ立つと、ふたりの背丈はほとんど変わらなかった。


「一緒に剣の稽古でもどうだ?」

「へ!?」


 また、素っ頓狂な声が上がる。

 しかし、その場の全員が同じ気持ちだったため咎めるものはいなかった。


 近衛騎士を辞めた後も、カズユキは貴族として王宮を出入りすることがあった。ケンリュウが幼い頃には剣や魔術のコツを教えたこともある。

 そのカズユキの「自分と同い年の養子」にケンリュウは興味を示したのだ。


 戸惑いを隠せないミナトの視線を受け、カズユキはコウに目配せをした。コウは頷いてミナトの隣に立つ。


「行ってこいミナト」

「け、剣なんて俺……」

「王太子直属の騎士団長様に教えてもらえるなんて、貴族でもなかなか出来ない経験だぞ。しかも、麗しの第二王子様のお誘いだ。行かなきゃもったいない」


 困り果てている背中を軽く叩いて、笑顔でつらつらとカズユキは喋る。離れるのを不安に思ったミナトはまだ何か言いたげに口を開く。

 が、助けを求めるつもりで見上げたコウの「俺がいる」という言葉に背中を押されて、緊張の面持ちで頷いた。

 

 4人の背中が見えなくなると、黙ってやり取りを見ていたセイゴウがカズユキを睨んだ。


「何の用だ」

「分かってるだろ? 子どもは聞かない方がいい話かもしれないから、王宮内探検でもさせるつもりだったんだ。丁度良かったぜ」


 口の端を上げながら、懐から取り出した金のボタンを見せる。きっちりと身に纏った白い服の肩には、問題なく金のボタンがついている。持っているボタンがセイゴウのものだという証拠はなかった。


 しかし、彼はカズユキに背を向けて歩き出す。


「部屋に来い。茶はないが」

「茶くらい出せよ」


 軽口を叩き合いながら、並ばずにカズユキはついていく。

 


お読みいただきありがとうございます!

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