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プロローグ
とにかく走る。
ただひたすら走る。
もう朝になったはずなのに細い路地は薄暗い。
少年は転がる空き缶を飛び越し、置いてあるゴミ箱をひっくり返して障害物を作ろうと試みる。
背後から舌打ちする声が聞こえるが、複数人の足音は諦める様子はない。
もう休みたい。足を止めて呼吸を整えたい。
しかし、この状況でそれをしたらどうなるかは明白だった。
スピードを落とすわけにもいかなかったが、どうしても状況を確認したい少年が後方に目をやる。
想像していたよりも距離がある。この辺りの路地は複雑に交差しあっているから、上手くいけば撒けるかもしれない。
このまま逃げ切りたい。
そう思った瞬間、何かにぶつかった。
勢いのまま尻餅をついてしまう。
「……! え……!」
顔を上げると、目の前には2メートルほどもありそうな大男が立っていた。
冷たい瞳で見下ろしてくる男に、走り続けて紅潮していた少年の顔が恐怖に歪む。
「だ、誰か、助けて……」
荒い息の中で絞り出した声。
それは目の前の男と後ろの男たちにしか聞こえないまま、汗と共に落ちていった。