春
恋のはじまりはいつも突然に一。
俺が産まれる前にデビューした歌手がロングヒットをしたソングの歌詞に書かれたフレーズ
そんな非現実的な状況はドラマやアニメの中でしか存在しないと決めつけて生きてきたが、2分前にそんな考えをある少女に打ち砕かれてしまった。
一言で表すと一目惚れ
俺は4月1日、エイプリルフールに嘘みたいな恋に落ちた
俺は念願だった第1志望に高校に幼なじみの有栖川玲香のおかげで合格をすることができた。
「玲香いつもありがとう。玲香のおかげで石高に合格することができた」
「私のおかげじゃないよ、がっくんが頑張ったからだよ」
そう言った玲香のクリクリした目には力を感じた。お世辞で言ってるのではなく、本心から言ってるだろう。
「玲香の幼なじみで本当に良かったよ」
「がっくんずっと一緒にいようね」
玲香は満面の笑みでそう言い、隣にいた俺の2歩先に行った。
そして俺の正面に立ち、
「ずっと、がっくんとこの桜並木を歩いていこうね」
暖かいそよ風に吹かれ、桜の花びらが舞い落ちる中に佇む玲香はまるで天使のように思えた。
「あ、あぁ」
俺は少し春の陽気にやられてしまったようだ。何ともない、ずっとそばにいた玲香に目を奪われてしまったから。
「がっくんどうしたの?」
あまりにも素っ気ない返事をしたものだから玲香が心配そうに覗き込んできた。
「すまん、新学期だから少し緊張してるみたいだ」
俺は幼なじみに見とれてたなんて言えるはずもなく、ありがちな嘘をついた。
「大丈夫だよ、がっくんはかっこよくて、優しい子だからすぐに馴染めると思うよ」
幼なじみからそう言った助言は素直に嬉しい
「でも、モ...うんん、やっぱり何でもない!」
玲香は何言いかけてやめたようだ。何を言おうとしたのかは気になるところだが、問いただしもこういう時の玲香は口を割らない。しつこく聞くと、せっかく機嫌の良い玲香が不機嫌になってしまうから聞くのをやめた。
「いつも励ましてくれてありがとうな」
「うんん、本当のことを言っただけだよ。あー早く知りたいな」
「何が?」
「どのクラスになるかだよ。がっくんと同じクラスになりたいな」
うちの高校はクラス編成が事前に分からない。入学試験と入学後の行われるテストを合算した点数で振り分けられるシステムを採用してる。ちなみに入学後のテストは今日行われる。それすなわち、体力テストである。100メートル走、ハンドボール投げ、1500メートル走の3種目が行われる。学校の狙いとしては知力、運動能力にクラスごとに偏りが生まれないようにするためのようだ。
「色々心強いし、俺も一緒のクラスになりたいな」
「どういう意味なの?」
怪訝な顔持ちで玲香は俺を見てきた。
「いざとなったら、玲香のノート見せてもらえるしな」
「あーがっくんまた、授業中に居眠りしようとしてる」
「違う、違う。授業のペースが早いって聞くから板書出来なかったら、玲香に見せてもらおうかなっていうことだよ」
「そういうことね。だったら私にお任せください」
「玲香は入学試験唯一の満点合格者だもんな」
この有栖川玲香を一言で表すとするなら、才色兼備
この4字熟語がこれほどまでに似合う女性もいないだろう。
「たまたまだよ!体力テスト頑張らないと」
「玲香は体力テストも満点かもな」
「そんなに褒めてもないも出ないよ」
玲香は照れくさそうにしてた。
「あ、お話ながら歩いてたら結構時間経っちゃったね。たっくん走ろう!」
玲香はそう言って、桜を走り出した。俺も連れられて走り出すと道端に落ちてる桜の花びらが舞が上がって、二人の門出を祝福しているような気がした。
学校に着くと仮のクラスを作られていた。学校側の配慮で同じ中学だった人達で固められているようだ。
当然、顔見知りがちらほらいる。俺の顔を見るなり話しかけてきた奴がいた。
「岳-!また3年間よろしくな」
「おー芝じゃん。よろしくな」
この男、芝裕太は中学で一番最初に意気投合し、仲良くなった友人である。なんの巡り合わせか、3年間クラスは一緒で部活も同じ部活に所属してた。
「有栖川さんもよろしくな」
芝は満面の笑みでそう言った。芝は玲香のことを有栖川さんと呼んでいる。芝になんでそう呼んでるかを聞いたことがある。
「有栖川さんってみんなに優しいやん?、でもどこか一線引いてる節があるんだよ。それは俺にも同じ接し方してるんだよ。本当に心許してくれたら、玲香さんって呼ぶかな」
「なるほどな」
「まあ、岳には心許してるがな。お前らいつ付き合うん?」
ニヤつきながら芝はそう言ってきた。
「付き合わねーよ」
そんなことを思い出しながら、芝を見た。
「なんだよ。岳、気持ち悪い顔して」
「気持ち悪い顔してねーよ、いつになったら有栖川から玲香になるのかなって思って」
「そのことか、まぁいつか変わるわ」
芝は投げやりにそう答えた。
「そんなことより、岳は対策してきたか?」
「対策?なんのだ?」
「そんなの決まってるじゃねーか、体力テストのだよ」
芝はさも当たり前のようにそう言った。
「してねーけど」
「岳、お前やっちゃったな。お前の青春終わったな。」
「はぁ」
「この体力テストが非常に重要な位置づけにあるんだよ。この体力テストで散々な結果を出すと、あいつスポーツできないんだっていうレッテルを貼られる。つまり、モテなくなるっていうことだよ」
芝は息荒らげてそう言った。
「モテなくてもいいから俺には関係ないな」
「またまた岳さんは強がっちゃって」
「うるせぇ」
「後で泣いても知らないよ」
「がっくんは今のままで十分だよ」
玲香が食い気味に話題に入ってきた。
「有栖川さんは対策した?」
「私は対策はしてないけど、日課の1時間のランニングはしてるよ」
「そうか、そうか。有栖川さんはバッチリだな。岳がどうなるのか楽しみだな。」
---ガラガラ
「席に着け、ホームルーム始めるぞ」
ガタイのいい男性教師が入ってきた。
「入学おめでとう、最初のホームルームだけ付き合いになるかもしれない戸部淳二郎だ。この学校のきまりで入学して早々悪いが、体力テストをやる。それによってクラスされるから心して臨むように、ちなみに廊下の突き当たりに男子、女子共に更衣室がある。体操に着替えて、準備できた者からグラウンドに集合してほしい。以上だ」
そう言って戸部は教室を出ていった。
「岳、更衣室行こうぜ」
先生が出てすぐに話しかけてきた。
「おう」
「がっくん後でね」
玲香もそう言って、教室を出ていった。
少しだけ心がワクワクしてるのを実感した。