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モグラ面接

面接に指定された場所は、宿のあるカウラという街から、ポータルという転送装置を使って移動をする。このポータルが設置されている場所同士であれば瞬間移動をすることができるのだ。


俺はポータルを使ってコラドという田舎町に飛んだ。役所でもらった地図を頼りに指定された場所を目指すが、町からはどんどん離れて山間を進んだ。


ずいぶん歩いたころ、遠くのほうから岩を削るような音などがかすかに聞こえてきた。俺は地図をポケットにしまい、あとは耳を頼りに歩いた。


到着したのは、切り崩した山で作業をしている工事現場。異世界とはいえ、俺が元いた世界の工事風景とさほど違いはないように見えた。


作業現場の横に建てられたプレハブ小屋のような簡易的な家をノックすると、髭を短く刈り揃えた大男に迎えられた。


「おう! お前がソウタか。よくきてくれた。俺はランドウだ。さ、入ってくれ!」


地鳴りのような低音と大きな体に圧倒され、一気に委縮してしまった俺はぎこちなく礼を言うのが精いっぱいだった。


案内された部屋では、掘削作業をしている現場を見下ろすことができた。


「いやぁ、わざわざこんな場所まできてもらって悪かったな!」


「ぜんぜん、大丈夫です」


「町で面接ってのもいいんだが、やっぱり実際に現場を見てもらわないとな」


「僕も実際に現場を見れて嬉しいです」


「そうか? そりゃあよかった」


簡易的なイスに座り、同じく簡易的な机を挟んでランドウと名乗った責任者と向かい合った。


「あんまり時間を取らしても悪いからよ、早速本題に入っちまおうか。お前はつい最近転生されてきて、そんときに穴掘りスキルを手に入れたって聞いてるんだが本当か?」


「はい」


その後もいくつか簡単な質問を受けた。


まだ実際に穴掘りスキルを使用したことがないということを伝えると、ランドウが穴掘りスキルについての説明をしてくれた。


「穴掘りスキルってのは、掘削したあとに土砂や瓦礫などを出さずに、ひたすら穴を掘り続けるっつースキルだ。地味なスキルだが、俺たちみたいな現場仕事をする場所では相当役に立つんだぜ」


「なるほど」


次の質問はすぐには飛んでこず、ランドウは俯きながら考え込んだ。


「勇者みてぇな仕事は、個々の強さが重要だ。もちろん、連携なんかも必要になるときはあるがな。基本的には、強い者同士が組めばモンスターに負けることはねぇ。


ただ俺たちがやっている仕事っていうのは、どれだけ優れた人間でも、ひとりでやることは絶対にできねぇんだ。


皆が他者を尊重し合って、信頼をしないと成り立たない、そういう仕事を俺たちぁやっている。お前に、それができるか」


ランドウはまっすぐ俺の目を見て聞いた。


どうせ長くはやらない仕事だ。適当に返事をしておこう、という心の底を見透かされているようで居心地が悪かったが、俺は不自然さが出ないよう取りつくろいながら返事をした。 


「はい、頑張ります」


「よし! なら、もう言うことはねぇ。明日からこの現場へきてくれ!」


様々な質問に対して応えを用意していたのだが、案外あっさり合格してしまった。それだけ穴掘りスキルというのが重宝されるということだろうか、と思った。


面接が終わったところへ、作業員らしき体格の良い男が部屋に飛び込んできた。


「あっ……ランドウさん、すみません。出直します」


「いや、今終わったところだ。どうした?」


「ちょっと見てもらいたい部分があって。このまま進むと崩落しそうな個所があるんです」


「わかった、すぐいく。……ソウタ、明日の出勤までに自分用のツルハシを買っておいてくれ。あいにく数が足らなくてな。費用は明日払うから立て替えといてもらえるか」


「はい、わかりました。今日はありがとうございました。明日からよろしくお願いします」


「こちらこそだ! 期待してるぞ」 


ランドウは白い歯を見せてニカッと笑うと、作業員の男と一緒に出ていった。


「ふぅ……」 


でかい体と声に終始圧倒されていたせいか、どっと疲れた。


現場となっている場所を見下ろしてみると、筋骨隆々な作業員たちがせっせと働いていた。自分の体と見比べてみると、普段よりいっそう自分が貧相に感じられた。


『俺に務まるのかな……』


元の世界でもガテン系の仕事はしたことがない。まさか異世界に転生されて泥臭く働くことになるとは、思いもしなかった。


不安を抱えつつも、ツルハシを調達するという依頼を済ますため、俺はその足でコラドの町にある商店へ向かった。


古い木の香りがする店内に入り、店の隅にあったツルハシを購入した。初めて剣を持ったときもその重さに驚いたが、ツルハシもまた重かった。


重いだけでなく、その形状のせいで剣とは異なった重量感があった。気を付けないと自分の体にツルハシの鋭利な先端が突き刺さってしまいそうだと思った。


こんな使いなれない道具をもって明日から仕事をすることに不安を覚えた。それに穴掘りスキルだって一度も使ったことがないのはまずいだろう。


俺はもう一度、さっき通った山間のほうへ戻った。道から外れた適当な場所を選び、明日に備えて穴掘りスキルを試してみることにした。


『……ちょっとまて、スキルってどうやって使うんだ?』


盲点だった。ゲームであればボタンを押すだけだが、実際に自分がやる場合はどうすればいいんだ。

試しにツルハシを振りおろしてみた。かすかに生えている枯れた芝を貫き、柔らかい土に刺さった感触があったが、スキルは発動しなかった。


『困ったな……。まさか、ランドウにスキルの使い方を聞くわけにもいかないし、今からカウラの町に戻って役所で聞こうか』


それも何となく億劫な気がしたので、俺はもう一度ツルハシを振りあげて、今度は深い穴が掘れるよう念じてから振りおろしてみた。


すると、地面に突き刺さったツルハシの先端を中心に拳二つ分ほどの穴があいた。


「おおっ!」 


思わず声を発した。これはスキルが発動したということだろう。今の成功によって何となくスキル使用の感覚を掴めた。


その感覚を忘れないよう何度も試していくうちに、気が付いたらずいぶん掘り進めていた。俺ひとりが入れる程度の幅の穴だが、深さ三メートルほどはあるだろうか。


『あっ……』


当然ジャンプしても届かないし、手で登ろうとしても無理だ。助けを呼ぼうにも、こんな場所にひとなんていないだろう。


そこに労力をかけるのであれば、穴掘りスキルでゆるやかな上り坂を作って地上に出るほうが得策だと考えた。

そうと決めたら早速作業を始めた。


何もせずただ考えていたら、絶望に心を支配されてしまいそうだったからだ。

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