私は聖女じゃないんですけど?
※ふわっとした世界観
※「私」の視点での話。地の分が「私」の内面の声
※現実世界に即している部分でもふわっと曖昧にしている所があるのですがご了承ください
ある日、日本から異世界に召喚されてしまった。
私はどこにでもいるような田舎の女子高生で、髪の毛を染めたいけどそこまで勇気はなく、だけどスカートの丈は当たり前のように膝上。バイト禁止の学校だからバイトはしてない。大学に進学したいから塾には通ってるけど週に一度だけ。二年生になったら週に二度に増えて三年生になったらもっと増えるのかなって思ってる。
そんなどこにでもいるような普通な女子高生だから、いきなり見知らぬ外国人顔の人たちに囲まれただけで怖くて仕方ないし、意味が分からないことをまくしたてながら聖女だって言われてもっと困ってしまう。
聖女って、教会が定めるんじゃないの?
携帯小説を読んでて、聖女って何だろうって調べたことがあるんだけど、聖女は教会が定める人で、本来は聖人って呼ばれるはず。歴史上の聖女は子供とかが多くて、しかも殉教してるんだよね。大体聖女っていうのは死後に認められるから生きている時に聖人もしくは聖女って呼ばれるっていうのはないってどこかで見たことがある。だから列聖っていう言葉があるんだけどさ。
つまり、いきなり呼び出したこの人たちが私のことを聖女って呼ぶのがまずおかしいと思う。どちらかというと救世主とかの方が意味合いとしては正しいと思うんだけど、そもそも話。ただの16歳の女子高生に世界を救えっていうことが狂気じみてる。
だって、世界の危険があります。ってなったらまず自分たちでどうにかしろよって思うわけ。なんでそこで、異世界から人を召喚してその役目をしてもらおう、ってなるわけ?
誘拐事件じゃん。日本での時間は止まってるの? 経過してるの? どちらにしても、私の意思に関係なく勝手にその場から連れ出すことは誘拐で犯罪なんだけど。そして私の目の前であれこれ言っている人は複数人いる。集団による誘拐事件って、やばくない?
それに、世界を救ってくれって言われて、「はい、よろこんでー」なんて居酒屋の掛け声みたいなことを言えるのは、英雄願望がある人か承認欲求が強くて自己愛が強すぎる人だけだと思うよ。普通は嫌だもん。だって日本にいる時すら他の地域に行くのに色々調べたり、不安に思ったりしながらスマホ片手にナビ出していくことだってあるのに、異世界でスマホ使えるわけ? 検索できるの?
そもそもスマホ使えない時点で詰んでるんだけど。スマホ依存の気は十分にあると自覚してる。その上でスマホ使えないって詰んでる。充電器はあるけどこれだって何時切れるかわかんないから下手に使えないし。でも勿体ないからどこかのタイミングで使い切っておくけど。
SNSも出来やしないから、何かアプリはあるのかなって思ったらメモ帳とかそんなものくらいで、腹立つから日記代わりにメモを取っておくことしか思いつかないじゃん。後は写真。日本には何が何でも帰るつもりだから、こんなバカげた世界に来てたよって証拠残しておかなきゃいけないわけ。
「は? 元の世界に戻れない? ふざけないでよ。誘拐犯。犯罪者集団。勝手に連れてきて勝手に世界を救えってほざいて、元の世界に戻せません? 馬鹿なこと言わないで。何人死んでもいいから私を元の世界に戻せ。こっちに来させるのに数人死んだのなんて私には関係ないよね? あんたたちが勝手に呼んだんでしょ。私には関係ないから私の知らない誰かが死ぬのだってどうでもいいから帰せ。やれよ。じゃなきゃ世界なんて滅んでもいいわ。だって私には関係ないからね。帰れないなら救う意味だってないし。あんたたちは困るけど、私は帰れない時点でどうでもいいの。馬鹿にしてるの? ガキだから言いくるめればなんとでもなると思ってるの? 私には関係ない世界が滅びるのを見て私が死んでも別にどうでもいいと思うわけ。あんたたちが困っても私は困らない。帰れない時点でどうでもいい。で、帰れないってあほな事あるわけないでしょ? 当然帰してくれるよね?」
勝手に自分たちの都合で人を呼び出すクソ達はやはりクソだなって思うけど、私は別に日本での生活が嫌になったわけじゃないし、好きな人はいるし帰りたいわけ。美形を並べ立ててもどうでもいい。だってお前ら日本人じゃないじゃん。
私を呼ぶために魔術師?さんたちが何人も死んだって言われても知らないよって思うじゃん。私がお願いしたわけじゃない。勝手に命かけて許可なく連れてきてるのは相手なわけで、なんで私が罪悪感を抱かなきゃいけないの?
最初からそんなことしなきゃいいわけ。だから私を無事帰すために何人死んでもいいと思ってる。だって私は無理矢理誘拐されたわけで、呼ばなければ誰も死ななかったんだから。死ぬ必要のないことをさせたのはこの偉そうな屑たちだから、恨むならそっちを恨んで欲しい。
私が日本に帰れないならこの世界が滅んでもいいよ。だってこの世界で生きていく理由がこれっぽっちもない。救う必要すらない。なんだったらさっさと滅んでほしい。魂になれば地球に戻って日本に戻って、私の好きな人の所に戻れるかもしれない。お父さんお母さんお兄ちゃんの家に戻れるかもしれない。
だから、戻れないならさっさと死んでしまいたい。
「私は聖女じゃないよ。まだ生きてるし。何? この世界での聖女ってどんな存在? 少なくとも私は徳を積んでないから。高潔な精神なんてない普通の子供。世界を救える力がありますって言われても、だから? ってなるわけ。力があるから無料で差し出せなんてクソしか言わないよ。友達同士の間で絵が描けるんだから描いてよって言われて無料で描くのは友情があるし関係性があるから。知らない他人がいきなり描けって言ったって無理っしょ。それはただの搾取。で、あんた達は力がある私を呼び出して、ただ働きしろって搾取して、元の世界に戻せませんってほざいて。その代わりにってどうでもいい好みでもない男と結婚しろって? 馬鹿にしてんの?」
日本に帰せる目処が立ったら声を掛けてね。それまでは何もするつもりはないよ。私は普通の女子高生だから町へ行ってどうにかバイトでも出来る場所探して働くつもり。そうしたらどこかにお泊りできるかもしれないし、住み込みの働き口を探せばいいだけ。
生活の面倒を見るって言われても、後で恩着せがましくされたらいやだし。
あのね、世界を救ってほしいっていうのはまず自分たちがどこまでどのようにやってみたけど無理で、異世界の人間のこういう力があるから助力して欲しい。その為のバックアップはする。勿論元の世界に戻す。ってならない限り、普通の常識を持ってる人間は受け入れられないよ。
はい、よろこんで。っていうやつは頭がおかしいの。元の世界に未練がないの。未練がある人間はすぐには受け入れないわけ。わかった?
じゃあ、世界が滅ぶまでに私が元の世界に確実に間違いなく帰れる方法を見つけてね。私は世界が滅んでも別にどうでもいいし、気にしないからさ。
じゃあね
「っていうことがあったんだよねぇ」
「うわ、マジで。これどっきりじゃないの?」
「どっきりならよかったのにね。ほら、これ、よく分かんないけど魔法生物ってやつ。地球上で見たことある?」
「うっわ、グロー。ねえ、ここに居るってことは無事帰ってきたわけじゃん?」
「うん、そうだねー」
「じゃあ、何人かあんた帰すのに死んだの?」
「かもね。知らないけど。だって帰った後に死んだかどうかなんて分かんないじゃん」
「それもそっかぁ。でさ、その隣にいるイケメン、誰?」
「異世界からどうしても一緒に居たいって泣きわめいてついてきた男」
無事に日本に戻ってきた時、まあ誘拐されて一週間くらい経過してたけどそれくらいならいっかぁと何とか許せる範囲だった。さすがに失踪届出てたよ。家族には心配かけたけど、文句はあっちの人に言ってほしい。
あっちの国で世界が滅亡する前に何とか私が日本に戻れる魔術が出来たとかで、しゃーないかと世界を救う旅をした。勿論しっかりバックアップはしてもらったしお金も出してもらった。正当な対価だよ。女子高生でもわかるよ、働いたらお金はもらわなきゃ。無料奉仕の精神はこれっぽっちもない。
んで、護衛としてついてきた人が今私の隣に座ってるイケメン。黒髪黒目のちょっと体格のいいイケメン。金髪とかが多い中で黒髪黒目の時点で日本人っぽくてホームシックになってた私はこのイケメンであるところのヨハンさんにべったりくっついていた。お兄ちゃんよりもごついけど、お兄ちゃんみたいに私の頭を撫でてくれたから。
他のきらきらしてる人達は私を懐柔しようとしてたからうざくてヨハンさんに余計にべったり。そうしたら近寄ってこないし。そうこうしている内に、ヨハンさんがここに残ってほしいっていうから嫌だよって言ったら、じゃあ日本についてくるっていうから、やれるもんならやってみなよって言ったら本当に実行しちゃったわけ。
戸籍どうしよう。記憶喪失の人が戸籍取得するのと同じ感じでいいのかなって思わないでもないけど、とりあえずイケメンがついてきちゃった。
ぶっちゃけた話、あっちに呼び出された時に好きだった人の事は、向こうで生活してた三年間くらいですっかりどうでもよくなった。最初の内は切なくて好きで好きでどうしようもなかったけど、唯の女子高生がその日を生きるのに必死に働いてたら、ほんとどうでもよくなったというか、恋愛どころじゃなかったわけ。
で、世界を救う旅なんてものに出てる間に私のことを大事にしてくれる人がいたら、コロってしちゃうじゃん。しょうがないじゃん。依存だとか言われたらそうかもしれないけど、誰も信じられない場所で一人ぼっちの所に、私を大切にしてくれる人がいたらその人に依存するのはどうしようもない。
べったりくっついてたのは私の精神安定もあるから。両親も兄も、ヨハンさんを連れた私を見て呆然としてた。そりゃそうだよ。だって一週間行方不明だった娘が戻ってきたら日本人にしては彫りの深いイケメン連れて帰ってきてたんだから。
一応ヨハンさんには、名前以外何も覚えてない記憶喪失にしてもらった。私もこの一週間の記憶は何もないけどヨハンさんに助けてもらったような感じがするって雰囲気でどうにかこうにか。
警察にも行ったし、色々聞かれたけど本当のことは言えない。ヨハンさんはこの世界の人じゃないから何もわからなくて、分かりませんっていうだけだった。
で、今日は親友と話をする為に集合したんだけどヨハンさんは当然のようについてきた。お兄ちゃんの服が滅茶おしゃれに見える。
彼氏ではないけどお互いに依存してる状態になってる。ヨハンさんがあっちの世界に帰りたいって思ってももう帰れないけど本当に良いの? って何度も何度も確認した。だって日本っていうか地球に魔法なんて概念は無いから。でもヨハンさんは構わないって。私と一緒に居たいって。
だから、私はそっかぁって嬉しくなって受け入れちゃったわけ。
「取り敢えず色んな手続きをしてヨハンさんの戸籍を入手してから、色々と考えようと思うんだ」
「そっかー、ま、頑張んなよ。夏休み中で良かったじゃん。学校始まってたら詰んでたし」
「それな。よっし、ま、そーゆーことがあったってこと。でもこれ内緒ね」
「わかってるってー。誰も信じられないってば」
「だよねー。じゃ、ヨハンさんと買い物だから行くねぇ」
「おっけ。またねー」
私もたいがい軽いけど、友達も軽い。でも口は堅いし信頼出来る親友だからヨハンさんを紹介したし私に起きた出来事も写真もメモ帳も色々見せた。
私は世界を救うまでは滅んでもいいと思ってた。でも私を雇ってくれたお店の人とか色んな人と触れ合うと流石に情が湧くもんだよ。でもあの世界で生きようなんてこれっぽっちも思わない。やっぱスマホは必須だし、美味しい食べ物だって大事。電気のない生活なんて考えられない。
初めて人混みを見たヨハンさんはすごく驚いてたけど、騎士なんてしてたからか人の気配には敏感で、人とすれ違う時にぶつからないヤバイ人種日本人顔負けの避けっぷりを見せてくれた。スマホを見て驚いて、テレビを見て驚いて、お風呂もシャワーも色々驚いて。
うちの両親もお兄ちゃんも、ヨハンさんが記憶喪失で行く場所がないって言ったらうちに居ればいいよなんて言ってくれるお人好し。ヨハンさんはその中で私が色々教えて現代日本の事を覚えていってる。あっちの世界に家族を置いてきたはずのヨハンさん。置いて来させたのは私。だから、私はヨハンさんを沢山幸せにするよ。
私は聖女なんかじゃない。どこにでもいる普通の女子高生で、好きな人を幸せにしたいなって思うまだまだ子供だ。
「ねーヨハンさん、お母さんがね、ヨハンさんのスマホ契約しよっかぁって言ってたの」
「俺に? いいのか?」
「うん。だから今度お母さんがパート休みの時に契約してくるから、色々教えてあげるね」
「楽しみにしてるよ」
「へへ。ヨハンさん、これからもずっと一緒だよ」
「ああ。勿論だ」
固有名詞がヨハンだけ。
聖女というか聖人は教会に公認されており、死後に認められる。という部分をピックアップした結果、救世主じゃね?となったのですが、そもそも誘拐事件だし、世界救う必要ないんですよね、「私」。
ということを曝け出した結果、中々過激派な思考になりました。あしからずご了承ください。
書き忘れてたのですが、異世界に行ったのは三年くらい。で日本に戻してもらう時に本来なら連れてこられた時間に戻すはずがやはり無理があり、一週間経過してた。外見は連れ去られた時の状態に戻ります。