私の”ギフト”は生卵!
頭空っぽにして読んでください。
この世界には生まれてくると神からなんらかのギフトがもらえる。
例えば火を起こせるだとか、水を出せるだとか、風を越せるだとか…
多くはそんな4属性とか呼ばれる“魔法”が使えることが多い。
なかには、何か物体を出せる人もいる。
そんな中、ベネディクト伯爵家の長女である私、エィリーの能力は“生卵”を生成するというギフト。
何だよ生卵って…ギフトを使うと任意の位置に生卵を発生させられる能力。
まさかこの能力がある事件をきっかけに別方向に花開くとは思わなかったですが…
*****
「…エィリー貴女との婚約を破棄する!」
王家主催の夜会で、本来エスコートしてくれるはずの婚約者ライシ・ホッカリン伯爵令息が私の前に来て声を荒げた。
「えーと、ライシ様何の御冗談で?」
「冗談ではない!幼少期に両家の決め事で婚約したときは貴女のギフトも面白いと思ったが、今となっては何の役にも立たない。貴女との婚約を続ける意味はないと感じている。私は愛するバティア・ボニト子爵令嬢と結婚する!」
そう宣言すると、どこからともなく、胸の大きな茶髪に金色のメッシュが入った女性がライシ様にしなだれかかって抱き着いた。
おや、浮気をしていたのか…
「はぁ、そうですか。浮気ですか、では婚約破棄とのことですが、そちらの有責ですわね…」
「何を言う!貴様がバティアを虐めたことはわかっているんだぞ!お前の有責だろう!!」
なんじゃそれ、私はそんな子爵令嬢しらんが?
「私はそちらのご令嬢にあったことも有りません。何か誤解されているのでは?」
「貴族学校でいじめていたとバティアから聞いている!」
おーい、一方の証言だけでこっちが有責だというのか馬鹿らしい。
なんなら私は学校に行っていないんだが?
「学校に行っていない私が何をしたと?」
「数々の罵倒に、ダンスパーティー用のドレスを切り裂き、最後には池に落としたそうじゃないか!!」
だから学校に行っていないツーの、話聞け。
しかし私だったらそんな虐めしないなぁわからせてあげるか。
「ライシ様…いえホッカリン伯爵令息、もしかりに私がいじめるとすれば、そんな方法はとりません」
「なんだと?」
「私の”ギフト”をお忘れですか?」
私は手のひらを上にむけ、そこに生卵を一つ召喚する。
周りの貴族たちも何をするんだと見守る中、私は大きく振りかぶって…ボニト子爵令嬢に投げつけた。
パキャ
彼女の着ているダークブルーのドレスに黄色いドロッとしたものが付く。
そう、生卵を投げつけてやったのだ。
「私ならこうします。何時でも手元に生卵があるのに、なんでそれ以外の回りくどいやり方をするとお思いで?その生卵に免じて、伯爵家当主を罵倒した侮辱罪は免除して差し上げますわ」
「な?!」
「ホッカリン伯爵令息は、私との婚約で婿になる予定でしたのよ?それを蹴飛ばしたんですから、あなたは今はタダの元伯爵令息。私は伯爵家当主。その意味お分かりで?」
「そ、そんなわけ…」
ホッカリンが慌てはじめる。
何をいまさら、この婚約は我がベネディクト家に婿に来るものだって最初っから分かっていたでしょうに。
彼女の姉はかなりちゃんとした方で、後妻の連れ子であるライシ・ホッカリンでは家を継げませんのに、何の思い違いをしていたんでしょうね?
卵を投げつけられたボニト子爵令嬢は茫然としたままだし、ライシは目を見開いて固まっている。
「お二人とも大丈夫ですの?目覚めの一発要ります?」
反応がないので、お二人の頭の上に怪鳥ケワタガモの生卵を落とす。
この怪鳥ケワタガモ、普通のカモとちがい翼を広げると5mにもなる魔物だ。
その卵の大きさたるや人の頭ほどもある。
そんな大きく、硬い卵が二人の頭に直撃した。
あ、白目をむいて倒れた。
「エィリー嬢、なかなか見事な撃退だね」
ぱちぱちと拍手をしながら近づいてきたのは、トースト侯爵家の次男フライ様だ。
「お見苦しいものをお見せしました」
「いや、いいさ。貴族学校で見苦しかったのは、そこで倒れている二人だからね。君は隣国に留学していたから知らないだろうが、公序良俗を乱す元凶だったんだよ。いい気味さ」
そんな会話をしていると王様が入ってきた。
伸びたままの二人は衛兵に担ぎ出されていったが、どうなったかな?
王家の挨拶も終わり、さてパーティーをどうしようかと思っていたら、また声をかけられた。
「エィリー嬢、今回の件はホッカリン側の有責で婚約破棄だろう?」
「まぁそうですわね。元婚約者が見ない間にあそこまでバカになっているとは思いもよりませんでしたわ」
「つまり、今君はフリーということだよね?」
「まぁそうなりますね」
「ぜひ婚約を申し込みたい」
「はい?生卵しか生み出せない私にですか?」
「それ以外の能力がすごいだろう。伯爵家の女当主としてふさわしい教養と公平性と、経営手腕を持っている」
「おほめにあずかり光栄です」
「私は侯爵家の次男だ。どこかに婿入りしたい。そこで、貴方の手腕と様相と共に、そのギフトに引かれた」
「生卵にです?」
「僕のギフトは”調理”でね。そして卵料理は大好きなんだ…ぜひ君にいろんな種類の卵を出してもらって調理したい」
「な、なんという変な告白…」
「家格的にも問題ない。どうだろう?」
まぁ彼の見た目は悪くないし、悪いうわさも聞かない。
ただ、その目を見る限り、無類の卵好きなのはわかる。
そんな顔をしている…
「とりあえず、まずはお付き合いいたしましょう」
「ありがとう!早速君に卵料理を贈るよ!!」
「その卵、私が出すのでしょう…」
ちょっとあきれたが、後日彼がうちに来て振る舞ってくれた卵料理の数々は確かにおいしかった。
完全に胃袋をつかまれたと言っていい。
この出会いから1年後、私たちは結婚することになるのだが、今まで”孵化することのなかった生卵”が結婚を機に”孵化”するようになったことで、我が領は小麦の生産地から一大養鶏地へと変貌していくことになる。
豊富な穀物と出荷する大量の鶏肉で、お屋敷を新築することができ、今では幸せな家庭を築いています。
おわり