ある入れ墨。
俺は、数日前、入れ墨のある学生時代からの友人とある休日に旅行にでかけた、旅館に宿泊するものの、銭湯に入れない。お前だけいけ、と言われた。じゃあ、旅館の外で別の温泉でも探しにいこうというもののかたくなに断る。間が悪かったので、自分は結局一人で温泉に、その後で問いただすことにした。
次の朝、食事中に昨夜のことをきく、ある悪魔との契約によって入れ墨をいれたのだと。これは人を引き付ける力があるので、場所や人を選んで使うのだと、銭湯でつかうと厄介なことになる、だから行きたくない。初めはバカ話として聞いていたものの、彼があまりに真剣に話すので、本当にそういう事があるのかもしれないと思い始める。というのも彼は冗談をいうどころか冗談の通じないバカ真面目タイプ。
『どうもなあ』
と思いつつ、旅行をおえた。その後も、彼は自分の体、特に上半身についてはタブーのようで、酔った勢いでふざけて脱がそうとするとひっぱたかれた、そこで、自分は彼の入れ墨についてもっと深い関心を寄せるようになった、人を引き付けるといったが、思うに実はもっとやばいものをつけているのではないか。
……例えば人を殺めていて、殺めた人の名前を入れた入れ墨をほったとか。
彼が普段真面目過ぎるので色々な想像が頭を巡った。
だが真相はもっと残酷なものだった。彼と共通の友人から、彼と知り合う前の事を聞かされた。というより自分があまりにしつこかったので、共通の友人も困惑しながら、ここだけの話と切り出して話してくれたのだったが。
彼は中学、高校と、恋人を二人なくしているらしい。ただの偶然だとおもっていたが、彼はあまりに、にたような状況で(二人とも自殺)で恋人を亡くしたので色々な霊能者に助けをもとめた。その中で彼が本物だと思う人間を一人みつけた。というのも、彼の悩みや考えていることをその霊能者はずばりあててしまったのだ。
そして彼が思っていた通りの事をいった。
『君は、呪われている、君が愛した人間は、その呪いに巻きこまれて悲しい顛末を送る事になるだろう』
彼は尋ねた。対処法はないのかと、霊能者はいった。かつて、あなたが前世でおった傷があると、正当な決闘試合の中で卑怯に剣先に毒をぬって決闘相手をころしたので、その相手が前世から恨みをかかえ、あなたの体にうまれかわっても癒えない傷を残した。そこでしらされた、入れ墨をいれる以前より彼は、上半身に斜めに剣で切られたような傷があったのだった。霊能者はその傷が不幸の原因であり、それを隠すようにある呪文を施した入れ墨をいれるようにすすめてきた。彼はその通りにしたが、いまだにかつてのトラウマが忘れられず上半身を他人に見せることができないのだという。
彼がバカ真面目なのも人との距離を保つためで、自分と会う前、二人も恋人を失うまえではもう少しふざけた、くだけた性格だったのだという。
自分はにわかには信じられなかったのだが、それからしばらくしたある時、ふと仕事中にかつての彼との学生時代を思い出していたころ、一度もみ合いの大喧嘩をしたことがあったと、なぜいつも彼女になりそうな人間とうまくいかないんだとか煽ってしまっていただろうか、あの話が本当なら、自分は……そして、彼は上着を脱ごうとした、多くの人間がみているのもかまわず脱ごうとしたが俺の目をみてこういった。
『これは……やりすぎだ』
あの時は俺の事をいっているのかとおもったし、上着を脱ぐくらいで戦況がかわるかともおもったが、きっとそういうことだったのだろうと、なつかしさとともに納得したのだった。