幕間・ピースの大冒険 I
「はあ……」
ワタシはピース。 ピース・ヴェルヴェット。まだまだ耳長族の中では215歳と若いのだが、森と里を魔物から護るために守人をしている……いや、していた。
ある理由で里を追い出されたワタシは、100年ほど前に弓を師事してくれた師匠から貰い、それからの生活を共に過ごした愛弓『ラピス』と少しの食糧などの荷物を持って今、森を歩いている。
ある理由というのは……『人間を助けた』と言うそれだけの理由だ。 それだけと言っても耳長族と人間の仲にはは複雑な事情があるようで、ワタシが産まれる前のある事件が関係しているようだが里の記録には記されて居らず、それを当時の事件を知る年上の耳長族も誰も話したがらない。
ワタシや里の若者では大方ミスリル鉱の取り合いなんかの戦争という説が有力だったが、どうにもならない考えをどうにかしようとしてもどうしようも無いので深くは考えない事にする。
私は里を追い出されたのだ。 里にはもう戻れないのだからそんなことはどうでもいいだろう。
「さて…これからどうするか」
里を追い出されたと言ったが、正確には『森から出ていけ』との事だった。 そんなに人間を助けたことが問題なのか……?
実のところ、ワタシは1度も森の外に出たことが無いのだ。 人間とのいざこざの前までは交流があったという話は聞いたことがあるが、今では勿論交流がないので外の情報はほとんど知らないし、そもそも里に残る知識も年寄り共の古い知識だ。
……当時を知る偏屈爺たちは事件のことは話したがらない癖に昔話はすきなのだ。 どうなってるんだ…。
閑話休題、話が逸れた。 考え事をしながら行くあても無く歩いていたワタシは先日人間の少女を助けた辺りまで来ていた。
「あの人間は無事に森を出ることが出来たのだろうか……どう思う、ラピス」
『この辺りは森の外に近いし、あの時も他に魔物の気配は無かったから問題ないんじゃないかな』
「むぅ……それもそうか。…しかしこんな森にバッグの類の何も持たずに何の用だったのだろうか。あとあの服装は人間の流行りか…?」
『弓にそんなこと聞かないでよ。 そんなに彼女のことが気になるんだったら、目標はとりあえずもう一度あの娘に会う…とかはどうかな』
愛弓ラピスは喋る。 それが判明したのはついこないだ…1年前くらいだ。 ……というか本人…本弓…? が喋れるようになったのもその頃らしい。ラピス曰く、『九十九年も肌身離さず大事に使ってくれたから』とのことだ。 『九十九年も』と言われてもワタシにはそれほど長いと感じられないあたり、長命の耳長族と弓では感覚が違うのだろうか。
弓が話せると判明してから弓の師を訪ねたのだが、『なにそれ知らんこわ……』と言った感じに奇妙な目を向けられた。 脳天をぶち抜いてやろうかと思ったが、師匠なりの考えもあり、会話ができる弓を使えるなんて神器を持ってるようなものだから…という理由で里でこの弓のことを知っているのはワタシと師匠だけだし、話す武器の前例は少なくとも里には無いようだった。
しかしまあ守人としてひとりでいることが多かったワタシは、この1年も以前と変わらず肌身離さず所持していたものでなんだかんだこいつと仲良くやれてると思う。
「そうだな、では何をするという目的もないが名も知らぬ少女との再会を目指すことにするか。 ……ん?」
蒲公英の種の様にふんわりとした目的が出来たところで、ちょっとした……いや、大きな違和感を覚えた。
「オークの死体がない…?」
『あれま、よく見たら』
そうだ、ワタシは確かにオークに追いかけ回されている少女を助けるためにヤツの醜い眉間に自慢の一撃をお見舞してやった。
だが、あのときワタシはついつい人見知りを起こしてしまい伝えられた感謝の言葉を適当に切り抜けて森の出口を教えて直ぐに去っているのだ。
……矢は正直どうでもいい。 材料があれば幾らでも作ることが出来る。 しかし問題はここにオークの死体がない事だ。 他の魔物が死体を漁ったとも考えたが、血痕どころか引き摺った跡すら無い。 あの巨体を何の痕跡も残さず移動させただと…?
考えられる事はふたつ。凄腕の錬金術師か何かが偶然この森に採集しに来ており、偶然この辺りを通りかかって偶然オークの素材が丸ごと必要で、偶然何の痕跡も残さずに回収する術を持っていた。 もしくはあの少女が……
「あの少女、何者なんだ……」
『ほら、すぐに旅の目的ができたじゃない。いい事だよ』
偶然が重なりに重なって錬金術師が通りかかったか、などという変な考えを捨てるとラピスの言う通りあの少女に聞きたいことができた。 少し癪だが、1度気になったことは貫き通すのがこのピースの信念だ。
「…兎にも角にも、彼女の痕跡を追うことにしよう……。草の倒れ方からしてあの少女はワタシが指を指した方へしっかりと向かったようだな」
その後はその辺からもぎ取ったエイプの実を齧りながら彼女を追って、当初の目的である森を出たのだった。
……ちなみにこの辺りにワタシの秘蔵の『いい感じの木の棒』を隠していたのだが、それが無くなっていたことと、その木の棒の行方に関してはまた別の機会に話そう……。
ピース・ヴェルヴェット
「うむ、エイプの実は美味いな」
ラピス(弓)
『あれ? 私もここで話していいの? ええと……ピースはエイプの実を齧って忘れようとしてるけど、いい感じの木の棒のことをまだ諦め切れてないみたいだよ』
「うるさい!」
これからも柚流の祈りが読者様に届きますように!
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