表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
TS巫女の祈りが世界に届くまで  作者: ゆの
第二楽章・ティエルの町のエチュード
17/21

ティエルの守護するこの町で

前話の後書きのスキル欄の違和感と設定ミスを少々変更しております、ご注意ください。


今話ともうひとつの閑話を挟んだ後、この章は終了となります。


「みんな! 2段ハンバーグだよ!」


「は?」


「あっ間違えた、夕ご飯の準備できたみたい!」



 キングさんシンプルにすごい顔でこっち見て来ないで、こわい。



「そわそわ……ただでさえ美味しいこの宿の料理の特別版が食べられるなんて………でも、今日で食べるのが最後だなんて……」


「お前だけ町に残るか?」


「キングくん!?」


「え!? いくら私でも流石にそれは……」


「ははっ! 冗談だぞ、やめてくれ」



 食べるのがすきなリップさんはレイの料理が食べられなくなるのが少し名残惜しそうで、一瞬キングさんのセリフに迷ってたような気がしたけど気の所為と信じよう。


 ボクがいるから少しの間であればインベントリによってレイの料理は食べることが出来ると思うけど、それもいつまで持つか…。



「とにかく、あの店主が私たちの門出を願う特別な料理ってやつを見に行きましょ!」


「ああそうだな。また知らねえ料理が出てくるかもしれん、腹いっぱいに入れてやろうぜ!」


「うん! 私もお腹すいて来た!」


「リップくんは昼あれほど食べたのにまだ食べれるのか…」


「え? もうお腹の中空っぽだよ」



 大食い系女子ってイメージあんまりない見た目なのに……ほんとにどこに入るんだろ。


 内容のないような会話をしながら階段を降り、ゆうべと同じ丸テーブルの席に着いた。


 …うん、座る前から気付いてたけど昼のヤケクソみたいな大盛りスパゲティの比じゃないくらい大量の料理が並んでいる。


 骨付き肉、カリカリになるまで焼かれたベーコン、巨大なオムレツのようなのが載った皿。 見知ったものや見たことの無いもの、ありとあらゆる料理が隣のテーブルまで所狭しと占領していた……。



「なんだあのテーブル……」


「さっきから店員が運びまくってたが…今日は宴でもやるのか?」


「いや、何も聞いてないぞ」



 周りの宿客のひとたちは唖然とした表情で料理の山……山脈を眺めています。


 ざわざわとした喧騒を引き裂いて突然厨房の方から何かを叩く大きな音が聞こえて来た。



カンカンカン!

「お前ら! 大量の飯で驚かせちまって申し訳ない! だが今日は大事な報告があるんだ!」



 フライパンを叩いて注目を浴びるのはレイ。この昇陽の光亭の受付兼店主兼料理長だ。


 先程の騒がしい雰囲気とは一転して静かに皆レイを見つめている。



「俺は、…今日限りでこの店を畳むことにする!」




……


………



「「「ええぇぇぇぇええええええッッッ!?!?!?」」」



「……と言うのは冗談だ」



「「「はああぁぁぁぁああああああッッッ!?!?!?」」」



 とんでもない爆弾発言と思いきや、爆弾に付けた火を一瞬で鎮火させた男がここに居ます。色々と心臓に悪いよ!



「悪い悪い……この後の本当の重大発表が衝撃的すぎるからちょっと肩の力抜いてもらおうと思ったんだ。 それにしてもそんなに俺の宿の事を思ってくれてるんだな…」


「当たり前だろ! あんたの料理が俺たちの生き甲斐だ!」


「そうだ! ハッゲ、たまにはお前もいいこと言うなぁ…」


「たまにはってなんだよ! ……とにかく店主、あんたの料理がどれだけこの町の人間を救って来たか…。 冗談で良かったがこれからも宜しく頼むぜ……」



 朝のモヒカンとスキンヘッドのおじさんたちもレイの冗談に安堵しているみたい。 あれ? あのひと本当にハッゲって名前だったの!?



「俺の味の為にそんなにも思ってくれるなんて…いやいかんわ話が進まねぇ。 そんで本題なんだが、そこに居る有名人……この町のギルド専属パーティ『チキンクソリプ』が今日限りでギルドとの専属を取り止めたんだ。 ついでに明日から旅に出るんだそうだ」



「「「何いいィィィィィィッッッ!?!?!?」」」



 またしてもレイの口から飛び出た爆弾発言にみんな大声で驚く。 今度こそは本当のことだね。



「だから今日はこの宿でこいつらの見送りの宴をしてやろうと思ってな。 そして今日泊まってるお前らはラッキーだな、そこにある飯はすきなだけ食え。今日くらいはサービスしてやる!」



「ウオオォォォォォォッッッ!!!」


「マジか太っ腹ァ!! もう一生この宿にしか泊まらねぇよ!」


「ハッハハ! そりゃ嬉しいな。 俺の料理と同じくらい驚いてくれたのも何だか鼻が高いな。…こいつらの話に関してはこの街に関わる重大発表だったが、どうせ明日になればギルドが大々的に発表するだろ」



 なんとも軽い調子で他のお客さんと話しているレイは、彼らが山のような料理に突撃して行くのを見送るとボクたちの方に近寄って来た。



「…とまあ、こんなところだ。 お前らも食っていいぞ」


「く、食っていいぞ……じゃないわよ! 沢山作ってくれたのは嬉しいしある程度の出費は覚悟してたけど宿客全員分の代金なんて流石に払えないわよ!?」


「あー……そっちか。 いやいいんだ」


「何がよ!」


「今回はツケにしておいてやるよ。 いつか旅が終わって帰って来た時に払ってくれればいいよ。 お宝探しの旅では無いにせよ世界を巡る旅なんだ、金はそのうち集まるだろ? 俺はお前たちのチカラと、ユズの旅の安全を願う。ただそれだけだ」


「レイ…」



 チキさんはお財布の心配をしてたけど、レイはそれ以上にボクたちの旅の成功を願っているみたいだった。



「店主……あれ? 私たち借金してる事になってない!?」


「あっはっは! 少しの借金くらい良いじゃねぇか、まずは他の客に食われちまう前に食いに行こうぜ!」


「…それもそうね。 そんじゃあチキンクソリプ、突撃ーっ!」


「う、うん! 私も行くー! じゅるり…」


「あっ待つんだリップくん! ……まずい、リップくんが大量に食べてしまう前に急げ!」



 みんな行っちゃった。ボクもハンバーグ食べよう! 昨日食べ始めてからのことは覚えてないけど、リップさんの話によると周りの人は様子がおかしくなったボクだけを注目していたのじゃなくてハンバーグを見ていた人も居たらしくて、今日の料理の中にはハンバーグも沢山ある。 これが意味することはつまり……



「おい見てみろ! これって昨日のめっちゃ美味そうな肉料理じゃねーか!?」


「何ィ!? …ん〜それスッゲェいい匂いするなぁ!! 俺も食うぞ!!」


「あっコラぁ! ボクのも残しておいてね!!!!!」



 予想した通りハンバーグに群がる異世界の人たち。 負けじとボクも人だかりに突っ込んで行く!



「おいユズ」


「なあにレイ、ボク今からハンバーグを食べに行…こ……」


「あっちでコイツ食いながらもう少し話でもしないか?」


「……うん!」



 ボクを引き止めるレイの声に振り返ると、レイが銀色のパカッてするアレの載ったお皿を持っていることに気付いた。 ……ボクの直感がそれが何かを瞬時に理解し、手招きするレイに着いていくことにしたのだった。







「何だかなぁ…」


「どうしたんだリーダーさんよ」


「あのふたり……店主とユズちゃんのことよ」


「ああ、何かあるのは間違いねぇな……実は同郷の異世界人だったりでもするんじゃねぇか?」


「ありえないとも言えないのよね……もしそうなら昨日の今日であんなに打ち解けてるのも納得が行くけどね」



 今もこれからユズちゃんがこっちに来ると思いきや、何か持ってる……十中八九ハンバーグってやつだと思うけど。 これおいし ……店主に話しかけられてそのまま端の方の席に2人で座っている。



「まあまあ、まだ旅も始まってないのに先行き不安もクソもねぇ。 何らかの落とし所見つけるだろうよ ホラ、葡萄酒だ」


「ありがと。 そうね……おいし」






「……だ、………ズ…………か?」



 レイの持っていたのは予想通りハンバーグだった。 付け合せには薄く切られたリンゴのような果物が載っている。


 ……たしかエイプの実だったかな? とにかくそれがハンバーグのデミグラスソースと相性バツグンで、レイの料理の上手さには心の底から感動できる。



「おーい、ユズ! 聞いてるか〜」


「わっ! ……ご、ごめん。 あんまり美味しくてつい……」


「そうか……それはよかった……じゃなくて! ええと…調理器具は一式この風呂敷に入ってる。 大事に使ってくれ」



 ちょっとレイの顔が赤くなった。そんなに暑いかな?


 受け取った風呂敷をインベントリにしまい込む。 重いけど、虚空に吸い込まれると何も重さを感じなくなった。 ほんとにこの中ってどれだけ入るんだろ



「ありがとうレイ! 今はレイ程の料理は作れないけど、次にこの町に寄った時にはレイの知らないレシピを教えれるくらい料理が上手くなれるように頑張る!」


「おう、その意気だ」


「……」


「………」



 なんだろうこの沈黙は。 あっちではあんなに料理に群がるお客さんたちで騒がしいのに、ボクとレイの周りで流れる時間はとてもゆっくりに感じられる。 まるで、世界が…空間が違うような……。



「ねぇ」

「なぁ」


「………」

「………」



 そんな沈黙を破ったのは同時で、どっちも言い淀んでしまったものだからすごく微妙な雰囲気になる。



「お前から先にいいぞ…」


「あ、うん…。 ええと、今でもレイは……和泉(いずみ) 怜司(れいじ)として日本に帰りたいと思ってる?」


「それか。 こっちに来て7年、ずっと帰り方を探していたけどもう諦めてたってのは今朝話したよな?」


「うん」


「そして昨日、ユズと出逢えた。 正直戻りたいって気持ちはあるんだが俺はそんなこんなでこの世界で宿屋を開いちまって、料理もしてる。 今更帰り方なんかを調べるってのももういいかと思ってるんだ」


「そうなんだ……」



 レイは目を細めて厨房の奥を見ている。 たしかレイの部屋には戻り方を調べるためか本が色々並んでたっけ。



「もし頼めるとしたら、旅先でなにか情報でもあったら手紙でも寄越してくれないか? 小さな町でも冒険者ギルドがあれば手紙の配達だって誰かがしてくれるはずなんだ。……なんかさっきからお前らの旅の目的を増やしまくってるな」


「うん、いいよ。 一つや二つ旅の目的が増えたって変わらないよ! …それで、レイは何を話そうとしたの?」


「あぁ……いや、お前も旅が終わったらどうするつもりなのか聞こうと思ったんだ。 例えば…帰り方がわかった時、俺はさっき『帰りたい』と言ったがお前はどうなんだ?」



 なんと、切り口は違えどほとんど同じ質問だった。


 ボクは日本に帰ってお母さんに会いたい、そう思っている。 でもボクは元の姿とは違って女の子の体になってしまっているから、お母さんに信じて貰えないかもしれない。


 あの天然お母さんなら信じてくれるかもって思ったけど、もし信じて貰えなかったら……そんなことを考えてしまう。


 後になって思い出すと、このときのボクはこの世界のことやボクの祈りを届けるという目的も、ボクの【祈り】の持つもうひとつのチカラの何もわかっていなかった。 というか実際そうだった。 だからこんな曖昧な答えを出したんだ。



ボクは…



「ボクは、わかんない。 帰りたいって気持ちはあるけど、今はまだ帰りたくないんだ」


「……そうか」



 誰にもボクの性別の話はしたことが無いから、なにか察したような反応をしてるレイも、ボクのごちゃごちゃした本当の考えは完全には理解出来てないはずだ。



「……ハンバーグごちそうさま、ありがとう美味しかった」


「お粗末さま。 もう、寝るのか?」


「うん、明日は早起きしてハンバーグの作り方を教えてもらうからね。それじゃあおやすみなさい!」


「おやすみ。材料は用意しておく」



 まだまだ騒がしい宴の続く1階を後にし、階段を昇って部屋に戻りベッドに入ったボクはやっぱり疲れてたようでそのまま夢も見ないような深い眠りについた。







 次の日の朝も怒涛のように時間が過ぎた。


 レイに料理を教わり、ご飯もいっぱいインベントリに詰め込んで、もう出発の時間だ。


 あっ、ゆうべは微妙な雰囲気で終わっちゃったけど寝て起きたらよくわからないモヤモヤも吹き飛んで、すっきりした気分で目覚めることが出来たよ。


 今は、ボクとチキンクソリプの合わせて5人。それとレイが町の門に来ています。


 宿に泊まった他のお客さんはみんな酔い潰れてるし、ギルドでは今日の昼に発表になるらしく、騒ぎになる前にさっさと町を出てしまおうという考えみたいです。 出発の理由はそれでいいかもだけど、冒険者がそんな簡単に酔い潰れていいのかなぁ……?



「あー……この町ともお別れかァ」


「そういえば私達が出会ったのは2年前の…」


「リップさん! みんなが出会った時のことすっごい気になるけど今は早く出発しなきゃ!」


「むぅ……それじゃあ、歩きながらゆっくり教えてあげる!」



 何故かわからないけど時間(文字数)が押してる気がする。



「んじゃあリーダーさん、お決まりのアレを」


「おっ、久々にやる?」


「たまには一体感を出さないとパーティの指揮が乱れるという理由から生まれたアレか…少し恥ずかしいが、今日は大事な門出の日だ。やるしかないな」


「うん、たまにやるからこそ元気出てくるよね!」


「えっ、何!? 何するの!?」



 何もわからないボクを他所に勝手に話が進む。 アレって何!?


 おもむろに全員横に整列したみんなに唖然としていると、チキさんが手を挙げて言葉を発する。



「リーダー、チキ!」「キングッ!」「ソル」「リップ!」


「ホラ、ユズちゃんも!」


「あ…えっ………ゆ、ユズぅ!」



「「「「チキンクソリプ、出陣!」」」」


「しゅ、しゅつじんっっ!!」



 小学校の頃全校生徒の前で夏休みの読書感想文の表彰を貰った時くらい背筋が凍りそう………。 今日こんなに寒かったっけ…?



「うーん……これからはユズちゃんがいるから新しいパーティ名も考えなきゃね」


「そうだな、新しい出陣ゼリフも」



 そういう問題なのかなぁ…?? レイを見ると、『これがコイツらのセンスなんだ…』って感じの目で頭を抱えている。


 …気を取り直して、ボクもちゃんと挨拶してから!



「……それじゃあレイ、行って来ます!」


「おう、元気でな! また会おう」



 とても寒々しいスタートだけど、心の奥は暖かい。 パーティ名や決めゼリフが変でも、こんなに暖かい仲間がいるんだから!



───プライティア歴 4104年、9月11日。 ボクたちの旅が本当に始まった日だ。

柚流 (ユズ)

「なんとかしてあの決めゼリフだけは変えてもらおう…」


チキ

「そんなに気に入らないの…?」


キング

「まあ、パーティ名もおいおい考えるとしてまたみんなで案を出そうぜ」


ソル

「うむ…私も恥ずかしいと思う。少しでもマシになってくれればそれでいいのだけど……」


リップ

「私は一体感があっていいと思うけどなぁ〜」



レイ

「『あいつらの旅が上手く行けばいいな…』……いや、行くはずだ。」

ユニークスキル【?い】使用中




これからも柚流の祈りと、冷司の?いが読者様に届きますように!



評価、感想、ブクマお待ちしています!

誤字報告も大歓迎です!


いいと思ったなら いいね もよろしくお願い致します!作者のモチベが上がって更新が早くなるかも…?


作者Twitterをフォローするとたまに没カットや裏設定などをツイートするかもしれません

https://twitter.com/Yokoyuno1210

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ