巫女の役割と少女の決意
───3日ぶり、かな?
止まった水の流れにスクリーンの様にしてヴェスタ様の姿が映し出されました。 この状況はどうなってるの…?
───あっ、ごめんちょっとマイク切り替えるね。
そう言うとヴェスタ様の声はぷつりと消え、少ししたのち
「ブツッ… んしょっと、これでいいかな」 と本当にマイクを切り替えたみたいなリアルな音がして、頭の中に直接響いていた声が耳の辺りに届くようになった。 そんなシステムなんだ……。
「ごめんね、配神用のマイクのままだったわ」
神様なのに配信業してるの!?
「しているよ。 私が最近気に入ってる新人女神も数年前からゲーム配神をやってるみたいだね。たまに姉妹で」
「神様たちめちゃくちゃアグレッシブですね!? …っていうかさらっと心を読まれた! これは間違いなくヴェスタ様だ!」
「おお……いいツッコミだ…。 このツッコミの切れ味は3日前に話した琴音柚流で間違いないね。 ……冗談はさておき、これからのユズちゃんのことなんだけど」
「待って下さい! 聞きたいことが…!」
「……大丈夫。君の聞きたいことも全て話すから、落ち着いてくれるかなユズちゃん」
ヴェスタ様の声色からさっきまでのふざけたような雰囲気が消えた。
ボクが初めてヴェスタ様と逢った時のように、暖かな地母のような笑みと威厳溢れる眼を併せ持った顔だ。
女神様の真面目な顔を見て、ボクも少し緊張してきた。
「そんなに緊張しないで、何も怖い話なんかしないんだから」
「……わかりました、お願いします」
「ユズちゃんのこれからのこと…というかまず、あの手紙のことなんだけど……。いくつか書き忘れたことがあるんだ」
「また何か大事な事を忘れてたとかですか!?」
「『また』、か…。 君には申し訳ないことばかりしちゃってるね…。本当にごめんなさい」
「いえ……過ぎたことはもういいです。 この体もまだ違和感があるけど身軽で前世より少しは体力もあるみたいだから、慣れれば問題ないと思います…」
「そう言ってくれると助かるよ。 それで肝心の伝わってなかった事なんだけど、それは君の『旅の目的』についてなんだ」
ボクの目的、【世界中に祈りを届ける】はあまりに抽象的すぎる。具体的に何をすればいいのか全くわからなくて困っていました。
再びヴェスタ様と話せるなんて、次があるかも分からない。 今のうちに沢山話を聞いておかなくちゃ!
「…この世界、【プライティア】には十数箇所の【聖域】と呼ばれる神界に近い神聖な場所があるんだ。 聖域っていうのは、この世界と神界を繋ぐ源泉……この世界のあらゆる均衡を保つために存在する場所のこと。 ええと、分かりやすく説明するなら…」
ヴェスタ様はボクに難しい言葉を噛み砕いて説明してくれました。
【聖域】というのがこの世界の上に立つ神界を支える柱のようなものみたいで、 これが崩れてしまうとその近くの辺りに地震が起きたり魔物の大群が押し寄せてくるなどの大災害が起きたりするのだと言います。
それで、この辺りの【聖域】というのが……
「この【大賢者ティエルの噴水】って訳。 いやあ、この名前すらも現代では知っている者が少なくなっていたようだからもう少し時間がかかってしまうかと思ってたんだけど、あの料理バカのおかげだね。 曲がりなりにもこの世界について調べてたようでよかったよ」
「料理バカって、レイ……怜司さんのことですか?」
「そうだね、何年か前に飲み会だかなんだか知らないけど急性アルコール中毒で死んだ 和泉 怜司 の魂を回収して神界に呼んだんだ。ユズちゃんと同じようにね」
「え? でもレイは女神なんて知らないって……」
「君と同じように転生の手続きとかをしたはいいんだけど彼、魂まで酔っ払っていたみたいでこの世界に降りたときは既に何もかも契約のことを忘れてたみたいなんだ」
ええ……。 レイとは昨日知り合ったばかりだけど、酔っぱらいのイメージはなかったなぁ…。
「……彼の本当の使命はユズちゃんと同じようなやつなんだけど、私と出会ったことすら覚えていないようだし、お店をやってなんだかんだ楽しく暮らしているみたいだからこの事は別に伝えなくてもいいよ」
「えっ、でも…」
「元々は彼にも【祈り】と似たチカラを与えたけど、多少なりとも神を信じる心が無ければ例え手に持ったチカラと言えども使うことは叶わない。 彼はもうこの7年で神を信じることは無くなっているんだ……」
もしあの宿から飛び出してボクの祈りの旅に同行しても、祈り手としての能力を持たないレイは役に立たない…。
そうはっきりと言われ、ボクは少し悲しかった。 せっかく出逢えた同郷の転生者同士行動する事ができない ということは悲しい。
───結局、ボクは1人で旅をするんだ…。
「……悩んでいるみたいだね」
「だって……たった1人で世界中をめぐる旅なんて…」
「誰も1人で旅をしなくちゃいけないだなんて言っていないよ。 ……君の性格から、あの4人に迷惑をかけたくない というのはよく分かるけど」
「けど…?」
「彼女たちは迷惑だなんて思っていない筈だよ」
「でもっ、そんな事どうして分かるんですか!」
『───ユズちゃん、なんでも一人で抱え込まないで!』
「っ…!?」
ボクの後ろから耳がキーンとなる程大きな声がした。
まさかと思い振り返ると、桃髪の少女が……チキさんがボクを見つめていました。
「チキさん、なんで…!?」
「話は途中からだけど私にも聞こえてきたわ……。 やっぱりユズちゃんは訳アリどころじゃなかったのね」
何故か朝のように少し不機嫌な顔をしている…。
いや、今回は何となく理由はわかるけど……。
「確かに私たちとユズちゃんは出会ったばかりよ! でも、だからってその訳アリの子に何も出来ないだなんてそれこそ苦しいのよ!」
「……でも、チキさんたちにはこの町にいる理由とかはないんですか!? それを無理矢理ボクの旅に連れていくことに…」
「この街にいる理由? 深い意味は無いわよ。 ただ、私たちのパーティの運営方針は【困っている人がいたら助ける】だから、どんなことがあってもユズちゃんを守る。それだけ! ………それと、『無理矢理』だなんて言わないで。 他のみんなもきっと同じ思いだよ!」
「っ…チキさん!!」
かなり強引だけど、チキさんの決心は固いようでボクが何を言っても着いてくるつもりのようです。
優しすぎて、もしこの人たちとは別の人間や悪い人たちに初めに出会っていたとしたら……なんて考えてしまう。 ……こんな事考えてちゃダメだ! 今の……この幸せを大事にしなきゃ!
「……話はまとまった?」
「あっ、ヴェスタ様のこと忘れてた…」
「いくら話した事があるとしても女神様に対して凄い対応するね……」
「いいのよ、ユズちゃんはかわいいから」
ヴェスタ様も大概だと思う…。
「それで……この町の聖域は元々損傷も少なかったらしくて、ユズちゃんが近くに来てこうして話してるうちにもう直っていたの。ユズちゃんが次に向かうべき所なんだけれど、ごめんなさい……色々と規約があって詳しくは伝えられないの」
「規約…? 神界とこの世界の危機って話なのにそんなものがあるの!?」
「ああ、本当に申し訳ないけれどその理由も今は教えることが出来ないの……。 方角と、その地域の名前しか伝えられないの。 次の聖域に辿り着いたら、また私がその次の聖域の位置を指示することになっているのよ」
でも前回はそれを伝え忘れてたんだったような…?
「ぐっ……。 と、とにかく伝えさせてもらうわ。 2番目の聖域の方角はこの町のずっと南西、【サーブリア】と呼ばれている所。 そこの何が聖域なのかはこれも理由があって言えないけれど、頑張って見つけ出して頂戴…。貴女と頼もしい仲間たちなら出来るはずよ」
「サーブリアって………何処かしら……?」
「えっ!? チキさんはわからないんですか!?」
てっきり聖域なんてものがあるくらいだから有名な町とか王国とかじゃないのかと思っていたけど、あまり知られてない所なのかな?
「あはは………いや、私地理がニガテで……。ソルなら知ってるんじゃないかしら……」
単純に知らなかっただけって可能性も出てきた。
ともかく、それらの話も宿に帰ってみんなで話し合えばいいのかもしれない。
「…女神ヴェスタ様、私はパーティのリーダーとして必ずユズちゃん…を守ることを約束させて頂きます」
「うん、いい心がけだね。 私のユズちゃんをよろしく頼みます」
私の!? ボク、ヴェスタ様の物だったの!?
……ヴェスタ様から新たなカラダを創って頂いたと考えれば、このカラダとしての生みの親はヴェスタ様ってことになる……ってこと…?
「ふふ……」
「なんですかその笑い!?」
「それじゃあ早速宿に戻って話し合ってから、みんなでその【サーブリア】って所に向かうわよ!」
「あれ? でもなにかまだ今日の予定があったような…?」
あっ! そもそもボクたちがこの町に来た理由って!
ギルドに行くの忘れてた!!
ヴェスタ
「え、何処で配神してるのかって? えへへ…ナイショ!」
これからも柚流の祈りが読者様に届きますように!
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