謎の夢、そして突然の死
初投稿です。
この物語は ある少女の慟哭から始まります。それでは!
──【ヒール】ッ、【ヒール】ッ! 起きてよ、ボクを1人にしないで…!
……ボクは無我夢中で目の前の女の子に回復魔法、【ヒール】をかけている。
「起きて……死んじゃやだよ……」
でも、地面に仰向けになった彼女の体はピクリとも動かない。右の太腿より下が千切れていて、地面に赤黒い水溜まりがどんどん大きく広がっていく。
「うぅ……痛いよ………」
「ッ!…め、目が覚めた!? ■■!! しっかり、意識を保って…!【ヒール】ッ!」
大怪我をしている少女 ■■ が痛いと訴え、喘ぎ、声を上げた。普段のの華奢な体からは到底出せない様な声で■■に声をかけ続ける。何度も【ヒール】の魔法を唱えているが、こんな状況に精神が動揺しているのか 魔力が霧散して効果が薄く、中々傷が塞がらない…。
「ゆ……ず………」
……他の仲間の優秀な回復魔法には遠く及ばない。 ここにいない神官の少女を思い浮かべるけど、そんなことをしている間に■■の体温は冷たい土に染み出している。
「もう…魔力が……。森よ……ボクに力を貸して…っ!」
ボクが神様に与えられた数少ない特別な力で森の木々に祈ると、少しづつ魔力が回復してくるのを感じる。
一人の少女『ユズ』はその後も何度も何度も【ヒール】を唱え、倒れた少女 ■■の脚を癒し続けた。
どれだけの時間が経ったことだろう、そのうち彼女の苦しそうな顔が段々と引いていき ■■はやがて安らかな寝息を立てて眠りについたようだった。
「ハァ、ハァ……なんとか傷は塞がった………」
持てる全ての力を使い切ったけど、傷口は塞がっても 失った脚先までは戻らなかった。最後に彼女の平たい胸に耳を当てると、「とくん、とくん」と静かだけど 確かに彼女の、■■の生命の鼓動を感じた。
「うん、大丈夫。ゆっくりだけど心臓は動いてる。」
「スー…スー………ユズ…………」
「ボクも、なんだか眠く………」
力を使い果たし、少女の傷口を塞いだボクは そのまま眠りに……
◇
ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ……………
なにか長い夢を見ていたような気がする。朝を告げる騒がしい音を止めるために手を伸ばし、アラームを止めて画面を見ると
9月8日 (火)
AM 6:15
……まだ起きるには早い。そんな時にすることといったら1つ。
「2度寝しよ…」
◇30分後
「柚流ー! 起きなさい!朝ごはん冷める前に食べちゃって!」
1階からお母さんの声が聞こえてきた。起きないと我が家の鬼がたたき起こしに来そう。 起きるかぁ。
「ってなにこれ!? パジャマが汗でびしょ濡れだ…」
◇
制服に着替えたあと、なぜか大量の汗で濡れていたパジャマを洗濯機に放り込んで階段を降りる。
「うーん………どんな夢だったか ぜんっぜん思い出せない…」
夢のことを思い出しながらリビングに向かうけど、夢の内容は思い出せなかった。
まあ、いいや! 今日の朝ご飯は何かなぁ。
『昨日、○○県□□市で一人の男性がトラックに撥ねられる事故が───』
「まぁ…可哀想…。最近交通事故多いわね…」
お母さんが朝のニュースを見ている。交通事故か…たしかに多い気がする。
少し前はトラックに轢かれて異世界転生なんて創作をよく見たなぁ。
この人も 気の毒だけど、横断歩道を渡ってたらいきなりデコトラに撥ねられるとか想像もできなかったんだろうなぁ…。
「あら柚流、いつもはパジャマのまま食べに来るのに 制服だなんて珍しい。今日は雪でも降るのかしら」
「自分の息子がいつもと違うことをする度に雪降らせてたら この辺り一帯が雪山になっちゃうよ…。今日パジャマじゃないのは汗で気持ち悪かったからさっさと着替えたの! 後で洗濯してね」
「丁度洗濯物回そうとしてたからいいわよ。今日は朝から太陽が出てて天気が良くなりそうだからすぐ乾きそうね」
いつも通りの会話をしながら朝のゆったりとした時間が過ぎていく。お母さんといつものように軽口を言い合いながらTVを見て、しっかりと朝ごはんを食べてから学校に行くんだ。
…ちなみに朝ごはんは苦手な納豆だった。あのネバネバがどうしてもだめなんだよね……。 お母さんが言うには 「さっきのニュースの占いで今日の柚流のラッキーアイテムは納豆だったから」 ……だそう。 アンラッキーアイテムだよ……。
ふと時計を見ると7時40分を指していた。
「もうこんな時間だ。それじゃあ お母さん、行ってきます!」
「行ってらっしゃい柚流。頑張って納豆食べたから 今日の夕ごはんはハンバーグにするわねー!」
「わーい!お母さんだいすきー!!」
靴を履きながらお母さんに愛を叫ぶ。やっぱり今日のラッキーアイテムは納豆だったみたいだ!……嫌いだけど。
「ふふ、やっぱりうちの柚流はかわいいわね。男の子に生まれたのがもったいないくらい!」
◇
「ハンバーグー♪ ハンバーグー♪」
スキップしながらハンバーグの歌を歌って登校していると 信号の向こうに友達が見えた。
「おーい!おっはよー!!」
あっ気が付いた! 笑顔で手を振っている。こっちも手を振りながら走り出す。
キキィィィーーードンッッ…!!
え………?
その瞬間ボクの体は宙を舞った。
いたい………こわい……なにこれ……………
空中で3回転程している間はたぶん数秒も経ってないと思う。世界がスローに見えて、朝食べた納豆やお母さんの顔。朝のニュースで見た交通事故が頭に浮かぶ。最後にボクの視界に入ったのは大きな車で、やっと今自分が置かれている状況が解った。
───ボク、トラックに撥ねられた……?
いやだ…いやだ……しにたくない…………死にたくない!!
そんな思いはもう遅く、硬い地面に激突する瞬間に頭に浮かんだのは………
───嘘でしょ……ここまで前置き丁寧にして、こんな雑な導入なの………?
………もうひとつの声にならない思いを誰かに託し、ボクはそのまま意識を失った……。
?? 柚流 [??? ゆずる]
年齢:15歳
高校1年生
性別:男
父は物心ついた時からおらず、母の愛情を小さな頃から一心受け止め続けた少年は女の子のような性格に育っていた。
1話のニュース内の交通事故はあるだいすきな作品が元ネタだったりします。
一言添えるなら 作者は仕事の関係上 とんでもなく筆が遅いと思います。それでも良ければ次話まで気長にお待ちください!
それと…… 評価、感想、ブクマお待ちしています!
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