星のカケラを探して
バスを降りると冬の低い日差しが、少し眩しく感じた午後。
冬枯れの桜並木の長い坂道を登って行くと、彼女が入院している病院が見えてきました。
聞くところによれば彼女の病は、重い難病で完治のみ込みどころか治療法すら無いという。そんな彼女の余命は持って三ヶ月と宣告されているが、両親はそのことを彼女に伝えていないという。
病院に着いてから彼女のが入院している病室へ案内されました。病室に入り彼女を見た第一印象は、とても重い難病を患っているとは思えないほど肌の血色も良く髪にも艶がありサラサラしていて、何よりも元気で瞳が輝いていたことだ。
彼女は僕を見るなり諦めの表情で「あなたが新しいカウンセラーさん。心理分析だとか心理検査なんてどうでもいいの、私はね私の願いをかなえてくれる人に来て欲しいんだから、それが出来ないのなら帰ってください」そう言うと彼女は寝返り窓の方を向いてしまいました。
僕はカウンセラーと言っても、まだ学生の見習いみたいなもので先生から君に会うように言われたので来ただけです。ご機嫌を損ねてしまったと云うのなら帰ります。
彼女は窓を向いたまま「あっそう、だったらとっとと帰って」
治る見込みのない難病をはっしょうして、長期間入院しているのだから仕方ないといえる。「分かりました帰ります」しかし、このまま帰ると先生に叱られるので一つ彼女に質問して観ました。「あの、願い事について教えてもらえませんでしょうか」そう言うと彼女は上半身を起こし私の方を向いて「聞いてどうするの?」これはと思い「話の内容によっては、何かお手伝いが出来るのではないかと思いまして」すると彼女はわずかに笑みを浮かべました。それならと彼女は願い事について話し始めました。
話の内容は、この街には昔からの言い伝えによると、何でも流れ星の欠片で作った菩薩像が七つあり、その菩薩像を探してだして順番通りにお参りすると願い事が叶うというらしい。そして、その菩薩像だが二体は街の寺院にあり、残りの五体のうち二体は前任のカウンセラーが見つけだしたという。
この話は面白そうだと思い「残りの三体を僕も探してみたいので、手伝ってもらえないかな」彼女にそう話すと「えっ!ほんとう、ありがとう」それから、彼女にまた会う約束をして病院をあとにしました。
探してみるとは言ってみたものの、何の手掛かりもないので前任者に聞いてみました。前任者は笑いながら「お前も飛んだ貧乏くじを引かされたな。最初は彼女が憶測と妄想で作り出した、空想の宝探しだと思っていたんだけど。二体見つけた時には驚いたけど残りの三体はどうしても見つけ出すことが出来なかった・・・」それで、なぜ見つけ出せたかと言うと菩薩像から、僅かに電離放射線が出ているらしく。簡易線量計にも反応があるらしいのだ。
それから僕は街の図書館へ行き、街の歴史や伝承‥について書かれている書籍を探した。
何冊か菩薩像にまつわる話を読んでみたが、どれも都市伝説紛いの話ばかりだった。しかし、その中で一つだけ菩薩像ではないものの地蔵菩薩について書かれたものを見つけました。そこには江戸時代中期に、東の空より火の玉が村に落ちて大雷が鳴り地面が揺れた。と書かれていました。
その書籍には、その火球落下のようすを描いた絵が、今でも地元寺に保存されていると書かれていました。。早速その絵を見せてもらいに僕は、お寺に行ってみることにした。
僕はお寺の住職に経緯を話し、絵を見せてもらえないか聞いてみた。すると、住職は快く絵を見せてくれることになった。
お寺の書庫から住職は両手に持ち、うやうやしく巻物2本をもってきてテーブルの上に置きました。
一本目の絵巻物を広げると、雲間から龍が天翔けるように描かれていました。2本目には星空の絵が描かれていて、星と星を線でむすんでいて当時の星座が描かれていました。僕はとりあえず2枚とも写真に撮っておき、お寺をあとにしました。
事務所に帰ると、地図に菩薩像が発見された場所をピンでとめてみました。そして、絵巻物を画像をモニターに2つ並べて眺めてみました。天翔ける龍・・・星空の図・・・星座・・・星座、星座、うん、まてよ。星が大きな星座もしかして、現在の星空と比較してみると僕はあることに気付いた「何だこれ大熊座じゃないか」それから、地図上の発見場所を重ねて見ると大熊座の尾の部分に合致することが分かった。「これは北斗七星だ」さっそく地図上に残りの星を星座に合うようにピンで付けて見ました。
それから僕は地図を手掛かりに、菩薩像を探してみることにした。
ほどなくして三体のうち二体を探し出すことが出来ました。
二体の菩薩像は地元の人から大切にされていたのだろう、赤い涎掛けに帽子を付けられ、前には季節の花が活けられていたからだ。残りの一体があるであろう場所は人里離れた山の上だと地図は示していました。
僕は車に乗り1時間ほど山道を行くと、目的地を見下ろす山の上に着きました。その場所はカルデラ湖の畔にある事が分かった。が、しかし、湖畔に降りる道が何処にあるのか分からないので、カルデラの周囲を歩いてみることにしました。
すると、下へ降りられそうな細い道を見つけたので降りてみることにしました。降り始めて暫くして気が付いたのですが、どうやら僕は獣道を山道と間違えて降りていました。何度か滑ったり転んだりしてようやく湖畔に辿り付くことが出来ました。
湖畔の周囲を見渡すと、石を積み上げた上に小さな祠が在るのを見つけました。祠の前に行ってみると、中に他の六体とは違う小さな青紫色に光沢を放つ菩薩像がありました。
これもまた地域の人に大切にされていたのだろ、お賽銭箱と花立には新しい花が供えられていました。
祠について気が付いたのですが、祠へ通じる石段の道が整備されていました。うん、よく探せばよかった・・・
入院中の彼女に七つの菩薩像を全て見つけ出したことを伝えました。すると、直ぐに僕に会いたいと連絡が来ました。
後日、彼女の病室に行き七つ菩薩像を見つけた事と、協力していただいた寺の住職の話や、カルデラ湖での藪漕ぎの話をしました。彼女は藪漕ぎの話にハマったみたいで「キャハハハ!獣道だったんですか。それは大変でしたね」と無邪気に笑い転げていました。
ところが、湖畔にある祠の話をすると、彼女の表情は一変して「私も、その祠へ行きたい」と言い出したのです。けれど、今の彼女の体力では山道を歩いて湖畔へ降りることは到底できない。それでも、彼女は行くと言って云う事を聞かずに、看護婦を困らせていました。そこで僕は、主治医の許可が下りたら湖畔へ連れて行くと、駄々をこねる彼女を説得しました。
数日すると彼女から先生の許可が下りました。と連絡が入りました。許可の内容は、一日限りで介護士が付き添う事‥でした。出発の日に彼女を病院に迎えに行くと、彼女は車椅子に乗り介護士が運転する介助用車に乗り込んでいました。
それから、車に乗り1時間ほど走ると湖畔を見下ろせる駐車場に着きました。介護士は彼女の車椅子を押して僕は道案内をしながらカルデラの周囲を巡る散策路を歩いて行きました。しばらく歩くと湖畔へと降りる石段の道へと到着しました。すると彼女は車椅子から立ち上がり、介護士の手を取り石段を一歩ずつ降りて行きました。湖畔に着き祠がを見つけると彼女は「ここからは私一人にして下さい」と言って、ゆっくりと祠の方へ歩いて行きました。彼女は祠の前に着くと、花立や賽銭箱を退かすと下に置いてあった敷石を持ち上げて、地面に落としました。僕たちが不安そうに見守っているのも構わず、今度は首から下げていたCDほどの大きさの星型のペンダントを取り出して、敷石があった場所に置きました。それから、巫女のように両右手を組み小声で何か呪文のようなものを唱えていました。
すると、いままで雲一つない晴天の空に暗雲が立ち込めて来て、湖の真上で渦を巻き始め強い風が吹き始めました。僕は彼女を呼びましたが聞こえないのか、振り向きもしませんでした。僕たちは一旦湖畔の樹の陰に身を隠すことにしました。渦巻きは猛烈になり湖の水を空へと吸い上げて行き、雲の中では稲光がして雷鳴が轟いていました。僕は木の幹に身を伏せながら空を見上げると、龍のような黄金色をした物体が飛んでいるのが見えました。彼女は祠が風よけになっているのか身も伏せずに手を組みその場に立ち尽くしていました。すると、湖の水が干上がり湖底の地面が割れ、地中から青紫色に輝く巨大な円形の宇宙船が現れて空に上がって行きました。渦巻く雷雲の中にいた黄金色をした龍は彼女の真上に来ると、手に持っていた球体から眩しいばかりの青白い光で彼女を包み込むと、龍はその球体を持ったまま円盤の下から中へと入り、宇宙船は一瞬にして空へと飛び去って行きました。
それから、たちまち嵐は静まり低く垂れこめていた雲も消えて無くなり青い空が広がって行きました。
僕達はここで起きた事を他人に話しても、誰も信じてはもらえないだろうと思いました。
後日、一緒に目撃した介護士にその後の話を聞いたところ、彼女は主治医にありのままを話したという。医師はその話を聞いて、何も言わずうなづいていたそうです。
私にカウンセリングを依頼した教授の話では、彼女の両親は里親で彼女は養護施設で育てられたそうだが、出生に関する記録は紛失してしまい何も残されていないらしい。
ただし、一つ分かっていることは、彼女は異星人で生まれ故郷へと帰って行ったと云うことだ。