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どんな傷でも癒やし〼  作者: 吉田夏帆史
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魔女の生い立ち

産まれてこの方、自分が魔女だなんて思ったことはなかった

父母は顔すら覚えられないまま他界して、父方の祖父母のことをずっと父母のように思って過ごしていた

そんな祖父も、私が10歳の頃には亡くなった

私に野菜や薬草の育て方、煎じ方を教えたのは祖父だった

切り傷や腹痛やノドの痛みなど、市販の薬は余り使わずに私は育った

祖母は占いが好きで、タロットやオラクルのことは祖母に教えてもらった

祖母は、よく近所の人のことも占っていた

祖母はいくつになってもおしゃれが好きで、肩より上の白い髪をふわりと波打たせて、手や爪の手入れも欠かさなかった

白いブラウスにカメオを留めて、藍色のカーディガンやジャケットにスカート

いつもきちんとした格好をする人だな、と思っていた

玄関先に下げられた箒を見て、薬や占いを頼む人もいたけれど、それを不思議に思うこともなかった

“魔女”という言葉は知っていた

けれど、それは空想の世界のお話

祖母は私にとって、ただ祖母で、祖父も同様だった

だから私は自分が魔女だなんて思ったことはない

当たり前に学校に通って、当たり前に就職をして…

そう、それが当たり前だった

変わったのは、やっぱり祖母が亡くなってから

遺された土地と家、それから自分でコツコツ貯めたお金

空虚になった家に帰っても誰もいない

家族と食べる温かいご飯はどこにもないし、年をとってなお、身の回りを整えていた祖母の気配は途端に消えた

例えば、気付いたら替えられているタオルとか

小さなメモ書きとか、お昼寝をしたカタチのタオルケットとか…

そんな些細なことが、この家を守っていたような気がした

主のいない家は暖かみを消して、常にどこか暗く、どこか寒気がした

私はだんだん気力を吸われていくような気がした

気がつけば仕事を辞めて、気がつけばよく床についていた

家が軋みながら、はやく後を追え、自分もすぐに行くからと、急いているような気がした

私は、行くならあんただけ行って! と心で毒づいて、近くに別の家を借りて逃げた

あの家を壊そうと決心して

そして、コツコツ貯めたお金で小さな一軒家を建てた

一人ぐらしには広めのLDKと寝室、トイレと脱衣所にお風呂場

余った土地は売ることも考えたが、ちょうどよく借り手が見つかったので一旦貸すことにした

土地の収入と、自分で作る野菜や薬草

当面の生活に困ることもない

今度こそ私は抜け殻のようになってしまった

居心地はよいけれど、まだよそよそしい家で

私は喪に服して黒い服を着て、玄関先には箒を下げた

だって、祖母がそうしていたから…


だから、私が今魔女と呼ばれるのは祖母がいたからだった

知らずに下げていた箒でも、周りの人から見れば違う

祖母を魔女と思っていた人からすれば、私も魔女だ

祖母がそうしていたと同じように、頼まれれば占い、頼まれれば薬草を分けて、子供たちは無邪気に私を魔女と呼んだ

そして、その呼び名がストンと腑に落ちて、私は魔女のことを調べ始めた

魔女には魔女がわかると書かれていたので、雰囲気のある人は勝手に魔女ということにしておいた

私はただ、祖母と同じということが嬉しかった

どういう意味かは関係なかった

魔女と呼ばれる度、地に足がつく感じがした

居場所ができるような気がした

そして生前祖母が占ってくれたことを思い出した

「あなたはその存在が人を癒やすから、そういう仕事がいいと思う」

それで暫くの道楽と、“どんな傷でも癒やし〼”という立て札を置いた

ほんとは、癒やしたかったのは自分自身かもしれないけど…

ほんとはただ、寂しかっただけなのかもしれないけど…

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