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3-1 陰湿悪役令嬢と黒猫

やっと黒猫の登場です。


「夕食のお時間になりましたら、お呼びしますので」


 しばらくの間、衣裳部屋でウンウンと唸っていたリリアナは、私に紅茶を淹れると腕いっぱいにひらひらふわふわの服を抱えて部屋を後にした。


 それを見送り、窓辺のテーブルセットに座って紅茶を飲む。



「婚約者候補、か……もう少し遅かったら喜んで受けていたところだったわね」


「ホントだよ! 間に合ってよかった!」



 突然聞こえてきた声に、慌てて部屋の中を見回した。



「違う違う、そっちじゃないよ。ねぇ、窓を開けて?」


 ガタリ、と音を立てて椅子から立ち上がる。マナーの先生の厳しい顔が一瞬だけ浮かぶが、それどころではない。


 先刻、落ちそうになったばかりの窓辺なので少し躊躇われたが思い切って近付く。

 そういえば子猫の声が聞こえてきて、それを助けるために私は身を乗り出したのだった。あの子猫は無事に木から下りられたのかしら? ……そう思いながら窓を開ける。



 すると先ほど子猫がいた位置に、それとは少し大きさの異なる、緑色の首輪をした黒猫が座っていた。


「やぁ、やっと会えたね」


 器用にも枝の上にちょこんと座っている黒猫は、私に向かってそう話すと枝の上を移動して窓辺に近付き、ヒラリと軽やかに室内へ入ってきた。


 そう、私に向かって話しかけてきたのだ。


「…………え?」



 呆然とする私の足元に擦り寄って来たかと思うとそのままテーブルの上に乗り、前足を揃えて行儀良くお座りした。


「ちゃんと説明するから座ってよ」

「わ、分かったわ」


 促されるままに椅子に座って、目の前の黒猫をじっと見る。

 つややかな毛並みに金色の瞳。


 ―――見覚えのある黒猫だな、と思った。



「……もしかして!」

 記憶の中にある金色の瞳の黒猫といえばあの子しかいない。

「思い出してもらえたみたいで嬉しいよ」

 その瞳を細め、ニャア、と一声鳴いた。

「でも、どうして? それに言葉が……」


「まず、この状況からだね。君に助けられたボクは、そのまま天寿を全うして猫としての生を終えたんだ。そして次の生を受けるべく、神様の前に立った」

「え、そんなシステムだったのね、世界って」

「うん。きっと本来は前世の記憶なんて次の生には引き継がないから、みんな体験してても覚えてないだけなんだと思う。詳しくはボクにも分からないけどね」


 なるほど、と納得するしかない。そういう仕組みなのだろう。

 うんうんと頷いて先を促す。


「それで、次の生の話になった時、ボクはキミのことを思い出したんだ。だからボクは神様に『ボクを助けて死んでしまった人間がいましたよね?』って聞いたんだ」


―――『あたし』のことだと分かる。


「そしたら神様、なんて言ったと思う?」

「なんて?」

「ものすごく挙動不審な動きをし始めて 『お、おぉ、か、彼女じゃな? か、彼女は、最期の瞬間に強く思っていた世界で、し、幸せにしておるじゃろう』って」


 ……ちょっと神様?


「明らかに怪しいから、ボク、問い詰めちゃったんだよね」

 金色の瞳がキラリと光る。

「そしたら神様ったら、突然ボクに謝り始めたんだ」


 神様であるが故のプライドもあっただろう。

 そしてきっとそれ以上の良心の呵責に苛まれたのだろう。なんせ転生先が陰湿悪役令嬢だ。救ったつもりが処刑まっしぐらじゃ寝覚めも悪いに違いない。


「しばらく神様の謝罪をあえて真顔で聞いてたんだ。それで、神様が 『わしだって、良かれと思ってじゃな……でも、ちょ、ちょっと、たまにはわしじゃって間違えることくらい……』って今にも泣きそうな顔になったところで、ボクは取り引きを持ちかけた」


 やだこの子怖い。神様相手に取り引きだなんて。


「まず一つ目、”彼女に前世の記憶を思い出させること”」


 さっきの出来事を思い出す。

 窓から落ちそうになったのはともかく、前世のことを思い出せたから処刑という未来を知ることができ、回避するための策を練ることができたのだ。


 知らないままだったら処刑まっしぐらだったと思うと恐怖しかない。

 ……まず一つ?


「それから」


 やっぱりまだあるようだ。



「ボクに、”彼女の未来を変える助けになる力を授けて、同じ世界に行かせてくれること”」



「……あなたは私を助ける為に、この世界に来てくれたというの?」


 私は、目の前にいる金色の瞳を持った黒猫を、じっと見つめた。


「もちろん、その為に来たよ。今度はボクが君を助ける番だ」


 まるで胸を張るかのように背筋をグッと伸ばして、その黒い鼻をツンと上へ向ける。


「ボクがいれば百人力だよ」

「ふふ、それはとっても頼もしいわね」


 その姿が可愛くて、思わず笑ってしまう。


「あ、笑ったね? ボクこう見えてすごいんだから! だってほら、さっき君が助けようとしたのは子猫だったでしょ?」


 そういえば……と思っている間に目の前の黒猫の姿がみるみる縮んで、子猫に変わった。


「わぁ!」

「こんなこともできるよ」

 驚く間もなく、今度はその子猫が黒い羽を持った小鳥に変わる。


「どう? 頼りになるでしょ?」


「えぇ、本当にすごいわ! それにこうやって前世とゲームの事を思い出せただけでも、とってもありがたいもの!」


 するりと黒猫の姿に戻った彼の頭を撫でる。そして、先ほどから気になっていたことを尋ねた。


「ところで、あなたの名前を教えて欲しいのだけれど?」


「ボク? ボクはノワール! よろしくね……えっと」

「コレットよ」

「よろしく、コレット!」


黒猫の名前はだいぶ悩んでノワール、にしました。

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