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死後

目を大きく見開いて外の景色を眺めていると、道の前方に小さな島が見えてきた。


「あれが目的地、かな?」


その予想は的中だった。バスはまっすぐと島へ向かうと、バスとおそろいのえんじ色のバス停標識のあるターミナルに駐車した。


窓から外を覗き込むと、島もこれまた美しいところだった。ターミナル周辺は公園のように丹念に整備されており、赤や黄色などさまざまな花が咲き誇っている。

くるりくるりと舞い踊る蝶たちは湖とそっくりの瑠璃色で、暖色系の花の色と対をなす。


(ただ、今は見惚れてなんかいないで謝らないと…)


少しずつ降りていく乗客の最後尾について、バスから一歩踏み出す。おばちゃんはすでに外へ出て、どこかへ乗客たちを誘導していた。


いくら謝りたくてもおばちゃんの仕事を邪魔するわけにもいかないので、のこのことおばちゃんの後を着いていく。


(これ、どこに向かってるんだ?おばちゃんはツアーの案内の人なのかな?)


乗客たちは無口で、けれどみんな少し明るい顔をしている。なんだかとても異様な光景。

ちょっと怖かった。


歩いて10分くらい経った頃、道の角を曲がるとびっくりするようなものがそこにあった。


「これ、エレベーター……?」


花が咲き誇る公園の中、何故かエレベーターが天に向かってそびえ立っていた。

目を凝らして天を見ても、エレベーターが途切れている様子はない。


なんだこのおかしな光景は。こんなものが、しかもこんなにも長いエレベーターが、なぜ。


立ちすくしていると、エレベーターの扉が開く。すると乗客たちはその扉の中、エレベーター内へと静かに乗り込み始めたのだ。

おばちゃんはバイバイと手を降って、彼らが入っていくのを見送っている。


僕以外の人がみんな乗り切った。


エレベーターの扉がゆっくりと閉まる。

ウイーンと音を立てると、どうやらエレベーターは天へと登っていったようだった。


「あんた、本当珍しい子だね。普段誰もいないはずの場所に立ってると思ったら、このエレベーターにも乗り込まないなんて。」


おばちゃんがこっちを、物珍しそうに、だが嫌味ではない視線で見ながら言う。

今なら話せそうだ。謝らなければ。


「あの!運転手さん、僕、お金も持ってないのにバスに乗せてもらって、しかもバス停でもないところで……。本当にすみませんでした!」


おばちゃんは驚きを隠しきれない表情でこちらを見て、そしてあははと豪快に笑った。


「え?えっと。」


「あんた、わかってないみたいだね。ここはね、死後の世界なんだよ。」


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