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冷え性異世界日記  作者: 大雪山系
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 ガタガタと震える星がキュッと自分にしがみつく様に、庇護欲が掻き立てられる。このように頼られて喜ばない騎士などいないだろう。華奢な体が震える様子に気が急く。一刻も早く暖めてやらねば体調をくずかもしれない。


 まずは火の精霊たちに、星が自分にとって大切な存在だから、暖めてやって欲しいと乞い願う。ふわりと周囲の温度が上がったのを感じて、帰還の指示を出した。


 「コナー班、護衛陣形!!ドリュー、照明弾を上げろ。マーク、ニコ、2人はロイドについて伝令に走れ。ロイド、副長に「星、輝いて手中にあり」と伝えろ。2人が遅れるようなら待たなくて良い。最速で行け!」


 いつも伝令を任せるロイドが、身体強化を施し飛ぶように去ると、慌てて新人2人が続いた。巫女発見から報告、案内と走り回っているにも関わらず、雪中での移動スピードが落ちない体力は良く鍛錬している様子を伺わせる。2人は雪深い北部の出身のはずだ。これまでの暮らしで自然と身体強化を使いこなしてきたのだろう。伝令は良い経験になるはずだ。


 魔術の繊細な扱いに長けたドリューが、空を一瞬真っ白に染める。騎士団内で白の合図は帰還命令である。聖域に散った者たちは即座に陣に戻るだろう。星を保護した今、極寒の聖域にとどまる理由はない。


 「治癒師はウェインを残して陣の後ろへつけ。ウェイン、陣に戻り次第診察を頼む。凍傷が心配だ。」


 恵まれた血と容姿から少々傲慢なところがあるが、ウェインは扱いやすい。腹黒一家は末っ子を溺愛するあまり、世間の荒波が彼を避けて通るよう手を回した。だからウェインは人の良い面を信じている。かの一族との距離感さえ誤らなければ信頼のおける部下だ。


 彼を星の専属治療師につければ、腹黒家族は末っ子ついでに星をも貴族から守るだろう。星に安全を、ウェインに実績を、腹黒一家に名誉を。良い関係だ。

 

 王都に入ったら、貴族院の幼年学校で同級だったウェインの次兄に会っておこうと算段する。






 麓の陣に向けて直走る。星の背負っていた不思議な材質の鞄は近接戦闘職でないドリューが運んでいる。腕の中の星は、やはり異界から来たのだろう、持ち物も着ている物も、この世界には見ない物ばかりだ。


 何より、その顔立ちが興味深い。自分達と比べると凹凸が小さく、顔のパーツの全てが小ぶりだ。顎が細くエラも張っていない。これまで星は皆、結婚適齢期の女性だったと記録されているが、もしかすると今回の星はかなり幼いのではないかと思える。


 体重も随分軽いし、体格も小柄。眉の上で切りそろえられた前髪、結われずにおろされた髪も、ここでは幼い子供の徴である。


 特務隊は、星が落ちる際の捜索とその後の護衛を目的としている為、女性騎士も一定数いる。星は成人女性を想定していた為、王都までは特務隊だけで移動予定だったが、必要なら安心できる侍女をつけるべきかもしれない。


 今は安全で暖かな場所への移動を優先したが、陣に着いたら就寝前に名前、年齢くらいは確認したい。腕の中の星は、やっと震えが落ち着きうつらうつらとしている。起こすのは忍びないが今後の為には仕方がないだろう。


 





 陣の明かりが目に入る。遠目に、出迎えの隊列を組んでいるのがわかる。仮眠中だった騎士も捜索から戻った騎士も集まっている。が、腕の中の星は眠っている。挨拶は明日にさせよう。まずは星用の天幕で診察だ。目がきっちり醒めれば食事もとって欲しいが、眠たがるようなら寝かせてやりたい。


 最も近くで護衛しているコナーに、その事を伝えようとした時、腕の中の星が身じろいだ。ゆっくりと目蓋が開き、漆黒の瞳が瞬いた。


 驚かせぬよう、なるべく落ち着いた優しい声を出すよう心がける。


 「お目覚めでいらっしゃいますか?特務隊の陣に到着いたしました。」


 眠たげに顔を上げた星と視線が絡む。


 「あ、すみません。私すっかり眠ってしまって。ここまでありがとうありがとうございました。とても暖かくて安心しました。」


 遠慮がちながら意思を持って降りようとする様子に、手放すのを惜しく思いながらそっと地面に立たせてやる。


 「全く重くありませんでしたよ。大変お疲れのところ申し訳ないのですが、隊の者が恵の巫女殿へご挨拶する為集っております。ほんの少しだけ、お時間を割いていただけますか。」


 星がこくりと頷いたため、皆の前にエスコートする。護衛として一緒に降りてきた者達もサッと隊列に入った。


 そして。隊員達を見渡し、厳かに、一言一句、ゆっくりと告げる。


 「今代の星、眩く輝きて我らが元に落つ!」


 星の手をそっと放し、星の横から正面に移動して、鞘ごと剣を腰から引き抜き、片膝をつく。騎士養成所で叩き込まれる王への忠誠。希望者の選抜を通れば、星への忠誠を許される。スウッと息を吸い込み、腹から声を出した。


 「我が剣、星の為!」


 『我が剣、星の為!!!!』


 「我が魂、星の為!」


 『我が魂、星の為!!!!』


 「我が命、星の為!」


 『我が命、星の為!!!!』


 「『忠誠を我が星に!!!!!』」


 最後の言葉に合わせて、剣を鞘ごと星の前に捧げ持つ。そして、そっと低い声で伝える。


 「我々は、あなたをお守りし、あなたの為に戦う存在です。どうぞ、私の剣を抜き、私の肩に乗せ、忠誠を受ける、とお答えください。」


 この言葉を、自分が口にするとは思っていなかった。星の落ちる周期から、星の騎士となる可能性はあったが、何となく自分達でなく他の特務隊が星を迎えると思っていた。


 王国に五つある騎士団それぞれに特務隊があり、他の特務隊が星を迎えると、それ以外の特務隊は星自身に望まれた場合を除き、隊が解体され王の騎士に戻る。


 いずれ、他の特務隊が星に信頼され護衛として働くのを羨ましく思いながら、北方騎士団の一員として国の守りに戻るものと思っていたのだ。


 

 

 



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