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特別任務と言えども、普段としていることはあまり変わらない。火の精霊の加護がある者は、ここでは暖房代わり、着火剤代わりである。
夜を越すため陣を張る準備が始まった。炊事場となった場所で焚き火に火をつける。加護持ちが灯した火は消えにくい。朝まで待つだろう。
「隊長!!ありがとうございます!」
食事担当の隊員に頷き、次は暖を取るために準備された薪に火をつける。隊員は皆鍛え上げられた肉体で、テントを設営し、荷を運んでいる。
今日は一段と冷え込むな…。もしこの聖域にいるならば、すぐにでも見つけなければ命に関わるだろう。
星を見つけたとの報告が他の隊よりもたらされるまでは、夜間も交代で捜索を続けることになる。
王城から、特別任務の勅命を持った早馬が部隊についたのは間も無く昼という頃だった。
『星が落ちる。備えよ。』
ーーーー!!ついに!!!
星とは、騎士団では異界から渡って来る恵みの巫女を指す言葉である。王国内の5ヶ所の聖域のうち、どこに現れるかは分からない。古の時代より、約100〜150年周期で現れる巫女。巫女が存命の間、天候は穏やかになり、農作物は豊かに実る。巫女が産む子は皆加護持ちで、加護の種類によって、様々な力を民のために使う。
けれども、血が薄れるにつれ加護持ちが生まれる割合も減っていく。
自分自身、一族の中で久々に生まれた加護持ちであった。巫女を娶った祖先はただ一人であり、今はもう先祖返りが稀にその力を持つだけである。
先代の巫女は一人目の子を産む際に亡くなってしまった。神から賜った恵みの巫女を幸せに出来なかったとして、彼女の夫は巫女の子の成人を待って自死した。
先代にまつわる悲劇のあと、150年を超えても恵みの巫女が現れなかったことから、王国内には不安の声が広がっていた。神の加護を失ったのではないかと。
そんな中もたらされた勅命。王家の加護持ちが神からお告げを賜ったのだ。王家はお告げを受けると直ちに各地の騎士団に勅命を出す。どの聖域に巫女が現れたとしても、速やかに保護する為である。
絶対に失うわけにはいかない!だがこの寒さだ。南の聖域で保護されることを願わずにはいられない。
「一班三班五班は直ちに食事を取れ!すぐに捜索に戻るぞ!二班四班は設営を完了させてから食事、仮眠を取れ!2時から捜索を交代する!」
指示を出すと、自らすぐに食事をかき込む。早食いは騎士団に入って身につけた。名門の次男としてお上品に育ったため、騎士団の養成所に入ったときはカルチャーショックの連続だったものだ。だが人生の半分以上を騎士団で過ごしている今、こちらの方が馴染みとなった。
「隊長、準備が整ったぞ!」
かつての上司で、今は副長を務めてくれているゲイルがやってきた。大柄な者が多い騎士団の中でも抜きんでた大男である。隊の中で誰よりも信頼している男だ。
「わかった。後は任せたぞ!この寒さだ。ここにいるなら俺たちが見つける。保護した場合の備えをしておいてくれ。見つけられなかったら…。他の聖域からの連絡を待ちながら保険的捜索になる。」
「そうだな…。グリフィン、見つけたら側から離すなよ。」
じっと目を合わせ、低い声でゲイルが告げた。俺を名前で呼んだのは個人的発言ということだろう。
恵みの巫女を娶るのは最高の誉であり、家にとって多大な恩恵をもたらす。巫女の気持ちよりも己の欲望を優先する輩は沢山いるだろう。特に成り上がりたいとの気持ちが強い中位、下位の貴族家出身者には注意が必要だ。
「あぁ。充分注意するよ。」
低い声で返し、集合した隊員達のところへ向かった。