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冷え性異世界日記  作者: 大雪山系
1/10

 初作品です。生暖かく放置してください。

 そこは一面の銀世界だった。月の光に、氷を纏った木々が輝いている。その影が青く伸び、雪面もまたキラキラと光を反射している。全ての音を吸い込むような静寂。月光の中で、空気中の細かい氷の粒が瞬いている。鼻から吸い込んだ冷たい空気は鼻の中を一瞬凍らせ、吐く息がそれを溶かす。どこか遠くの方で鳴る金属のキーンキーンという音が、妙に間延びして響いて来た。辺りを見回そうと一歩二歩と足を出すと、キシキシと雪が鳴る。


 あぁ、ヤバイ。これはヤバイ。。。。


 ここが何処かは分からないが、はっきりしていることがある。体感的にマイナス20度近いだろう。もしかしたらそれ以下かもしれない。故郷の真冬の夜明け前を思わせる寒さ。凍死一直線だ。


 身に纏っているのは外勤があったため、チャコールグレーのスーツに、スッキリしたラインの黒いウールのコート。雪に備えてフード付きのものだ。足元は長靴代わりの黒革のロングブーツ。せめて小物は明るい色のものをと、マフラーはカシミアのパステルピンク。手袋はベージュの革の中にフリースが貼ってある。


 私は寒がりだし、冬の仕事着にしては着込んでいる方だろう。140デニールの吸湿発熱素材のタイツだし、お腹にカイロだって貼っている。


 それでも。この格好は雪の日に、社用車で、暖かい会社から暖かいお得意様のところへ行くことを想定した服だ。雪の中にいるのは、会社から駐車場、車の雪下ろしをする間くらいだ。長時間厳寒の屋外にいる事は全く想定していない。


 ヤバイ。ほんとヤバイ。どうしてこうなった。どうして月が2つある!!








 とりあえず、持っているありったけの物で保温しよう。


 ビジネス用のリュックには、昨今の災害対応の風潮から、エマージェンシーキットが入っている。巾着に入れ、コンパクトに圧縮してあったダウンジャケットを取り出し、一旦ウールのコートとスーツのジャケットを脱ぐ。


 寒い寒い!!


 急いで予備のカイロを開封し、ニットをめくって保温アンダーシャツの背中側にも貼る。ダウンジャケットを着て、必死にジッパーをあげようとするが、保温のために伸ばしている髪がひっかかる。


 もう!髪の毛が邪魔だ!!


 両手で髪を背中側にバサっと流し、やっと顎下までジッパーを閉めた。スーツのジャケットとコートをまた着てから、通勤時に被っている分厚いニット帽にギュッと頭を押し込み、しっかり耳まで隠す。


 あぁマシになった。頭の防寒は大事だ。着込みすぎた肩まわりはキツいが、寒いよりずっと良い。


 月明かりで辺りは見やすいが、誰かに発見してもらうためヘッドライトを点ける。


 さっきの金属音は自然の音ではなかった。多分人がいるのだ。そうに違いない。そう思おう。違ったらどうせ凍死だ。


 金属音が聞こえたと思われる緩やかな斜面を下る方向へ歩き出す。風の音とは思われないリズムで笛を吹く。


 人がいますように!見つけてもらえますように!!暖かいお風呂に入れてもらえますように!!!


 必死に都合の良い希望ばかり頭に浮かべて、陽気なリズムで笛を吹き、ひたすら足を動かす。


 


 

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