旅立ちの日に
俺が目を覚ましたときには、周りの人間が悲しみに満ち溢れていた。
誰かが死んだのである。俺の両隣のベッドには2人の男女が息を引き取っていた。
「お子さんは大丈夫だったか」
「良かった…あなたが無事で」
「まだ体を動かすのは辛いだろう、もう少し休んでいなさい」
「可哀想に…まだ中学生なのに」
俺には全く理解できなかった。
あの人たちは誰だ?
俺はなにをしていたんだ?
誰が死んだんだ?
…わからない。今までの人生で培ってきた
記憶は俺の体から消えてしまった。
どうしても思い出せない
俺は死んでまっさらに生まれ変わって
しまったのだ
あの時の俺はもうこの世にいない
数ヶ月、俺は退院して叔母にあたる人物に
引き取られることになった
病院を出てすぐ入り口に叔母の車があった
「さあ、乗って!」
荷物を積み上げて助手席に座った
「いざ、出発!」
新車の匂いが俺の鼻に差し込んでくる
これから俺はどこへ行くのだ
過ぎ去っていく街並みを眺めながら俺は不安を感じていた
「これからはよろしくね!」
「え、あ、はい」
「もーそんな緊張しちゃってー」
叔母は笑顔だった
陽気で頼りになる感じの雰囲気を持っていた
「忘れたことはしょうがない!また1から頑張ればいいんだよ!」
「…ありがとうございます」
「さあこっから長いから、リラックスしてな!」
その気遣いが俺にとって少し嬉しかった
安心したのか体に力が抜けてすぐに眠ってしまった
「起きなー着いたよー」
叔母のハキハキとした声が俺を起こそうとした
あれから何時間たっただろうか
ここはどこだ真っ暗で見えない
「そんなキョロキョロしないの ここは地下駐車場なんだから
私の家は上の階だよ」
エレベーターに近づくにつれ心臓の鼓動が大きくなった
ここから俺の新しい人生が始まる
ここから新しい人々と会う
ここから新しい学校へ行く
新しいと言っても記憶がないので
初めてのようなものだが
3階に着いた
ドアが開いた瞬間目の前に見えた光景は
夜の暗闇に眩しすぎるほどの光に包まれた多くの建物が並んだ眠らぬ街であった
「東京、初めてだよね」
「はい」
かろうじて俺は昔に学んできたある程度の知識は失っていない
しかし東京に行ったのは俺の人生ではじめてだろう
「じゃあリンネの部屋はここね」
「リンネ…?」
「あんたのことよ “新田 リンネ”それがあんたの名前 自分の名前は覚えておきな」
「はい あの…その…お世話になります」
「敬語使うな! これから私たちは家族! 私のこと“おばちゃん”って呼んでいいから!」
「…うん わかった よろしく」
事故で以前の自分を失った俺
何も知らない俺にとって世界のほんの一部である東京がとてつもなくデカく感じた
ここで俺は何者になるのだろう
この広い世界で誰に出会うのだろう
不安と疑問が心の中で混じり合う中
俺は眠りについた




