近未来の楽園
2030年、東京
あれほど騒がれていた国際的なスポーツ大会は、懸念されていたトラブルも無く終了した…はず。
そもそも、僕が国際的なスポーツ大会にあまり興味がないせいもあったせいかもしれない。
まぁ、そんなことはどうでもいい。
オリンピック後に訪れるといわれていた経済衰退も特にみられなく、
僕――森沢海斗――は、新卒で中堅企業に就職し、特筆することのない生活を送っている。
いわゆる、どこにでもいる高校生…が、さしたる皆が期待するようなドラマティックなイベントもなく大学生になり、社会人になった、ただそれだけ。
このまま何も変わらない生活が続いていく…その、はずだった。
「ねぇ、今日はお弁当持ってきてないなら、どこかに食べに行かない?」
同僚の小林さんから声を掛けられる。
この娘は同期入社だが、僕より年下だ。年の割には幼く見える。
「いいけど。そういえば、また駅前に新しい店ができたみたいだし、行ってみようか」
僕は答える。
「ふーん…最近、どんどん店ができるよね」
「まぁ、そうだろうな。あの日を境にね」
「そっか…あ、ついた!」
入店。
「いらっしゃいませニャン!」
店のドアを開けると、カラフルな髪の毛の猫耳メイド少女が僕らを迎える。
「あー、なるほど。こういうタイプの店か」
「結構おしゃれな感じだね。海斗君。ランチメニューあるみたい。私Aセット!」
「じゃあ俺はこのハンバーグ定食でいいや」
到着まで店内を見渡す。
食事を待つ間もノートパソコンから目を離さないサラリーマン。
近所の会社だと思われる女子グループ。
部下と上司だと思われるペア。
客層は様々だ。
2030年、異世界移民法案が可決され、異世界転移者への就労許可が下りることになった。
猫耳メイド達はなぜか無から料理を作成する能力を持ち、それがとても美味なので瞬く間に評判となり、
オフィス街にはサラリーマン向けの猫耳メイドの店が増えている。
新橋、新宿、池袋――どこも同じような状況で、ここ品川も例外ではなく近隣のサラリーマンの食べログ評価はこの手の店で上位独占となっている。