~クイダオレと心斎橋~
第九話 夢か現実か
ここはオアシスだ。アキバと同じ匂いのする空間にいると、身も心も癒されていく。
さっきの予期せぬ戦いの末、レベルは上がったものの、HP、MPともに消費した気がする。どこかに薬草はないだろうか。
キョロキョロとまんだらけ店内を散策していると、のハンコックのコスプレ店員(巨乳)と出くわした。
「はうう!」
不意をつかれ、完全にひるんで陳列棚に隠れた。
「これは、もしやぱふぱふチャンスなのかもしれん。一気に全回復できる。」
そう思ったが、何をどうすれば、ぱふぱふを購入できるのかは分からない。
何ゴールドだろう?俺の予算は星空凜8分の1スケール完成品を買うと、帰りの電車賃がぎりぎりといったところだ。
唾をのみ込むと、棚越しハンコックを見つめる。そこへ、国木田花丸コス店員(巨乳)が出現した!
「おおおおお!」
奇跡のコンボを目の当たりにし興奮していると、陳列棚のそこかしこに同じ様子の同朋がみえた。
「みるみる、回復していくのが分かる。回復の泉だ。」
雅之はみなぎるエネルギーを内に秘め、店内を何度も往復した。
「うむむ。この凜ちゃんは、塗装が荒いな。仕方ない、少し値は張るが、ネットでいつもの職人から買うか。」
修行をしばし忘れ趣味を満喫していたのだが、わざわざ大阪まで来たもう一つの大きな理由を思い出す。
「いけね、もう時間だ!」
予定の時刻を少し過ぎたことに気が付き、小走りでまんだらけを後にした。
心斎橋のマクドナルドは、地元の指定席に比べ、座る席を待たねばならないほどに混雑している。
「しまった。こんな所で待ち合わせをするんじゃなかった。」
店内をキョロキョロと見渡したが、それらしき人物はいない。
がっくりと肩を落として諦めて帰ろうとしたその時、
ツンツン、
瞬時に今年度最高点である98点を叩き出した萌え系美少女推定15歳に、肩ツンをお見舞いされ、膝かっくん状態に陥った。
「ななな、ななな、何でありますか?」
何もない空中に目線をうろうろさせつつ、やっとのことで声を絞り出した。
萌え系美少女は、左の口角をキュッと上げた笑みを浮かべ、
「クイダオレ仙人」と、自分を指さした。
目が飛び出るほど驚いた雅之は、まさか、と思った。
山田の言葉を思い出す。
「オフ会には行くな。」
「ハンドルネームから連想されるイメージはしょせん妄想にすぎない。可愛いハンドルネームの主がおっさんだったり、じじいだったりするのが世の常だ。ネカマは巧みに俺たちの心の軟らかい部分を刺激してくる。オフ会に行ったが最後、それまでの楽しい繋がりは儚く消え去るのだ。」
山田がどんな目に逢ったかは言及しないが、俺は、山田のように無防備にはならない。
むしろ、クイダオレ仙人がオネエだろうが、じじいだろうが、変態だろうが、構わない。奴との友情は変わらない。
こんなに俺を分かってくれる友達はリアルには永遠に現れない。
ネトゲで沢山の苦楽を共にしたクイダオレ仙人。
女子の生態を共に研究している山田にも話していない秘密のあれこれも、クイダオレ仙人にだけは話せた。
「ぐおおおお。」
なぞの音を発するのが、今の雅之の精一杯だった。
クイダオレ仙人は雅之のそんな様子を見ても、笑わなかった。
人一倍侮蔑されることに敏感な雅之が、嫌な感情をまったくもって察知することはない。
「なぁ、ここ混んでるし、めっちゃいい喫茶店知ってるから、移動しよか。」
クイダオレ仙人は、顔に似合わない関西弁で、雅之を誘う。
「ぬぬぬぬぬ。」
まだまともな声を出すことの出来ない雅之の手を引くと、マクドナルドを出て行った。
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