~正義のヒーロー~
第八話 レベル3
夏休みに入ってすぐ、大阪のおばあちゃんの所へ行くことにした。二泊三日の修行の旅だ。おばあちゃんの家なら、心斎橋のまんだらけまで電車と徒歩で15分もあれば行ける。
秋葉原のまんだらけに不満は無かったものの、修行とあらば、アウェイにあえて身を置く方がいい。それに、心斎橋店はかのアメリカ村、通称アメ村にあるという。
行ったことはないが、関西のリア充お洒落ピーポーが生息すると噂に聞く、危険な街だ。レベル上げには、少し辛いくらいのモンスターを倒す方が効率がいいのは言うまでも無い。魑魅魍魎どもを蹴散らして、早いとこバイキンマン小から卒業せねばならない。
大きめのリュックサックを背負い、母の握ったおにぎりを片手に新幹線に乗り込む。
往復の新幹線代はお年玉を長年ため続けた貯金箱を叩き割り捻出した。これで、壊れていない貯金箱は小2の夏休みの工作で作った紙粘土のスライムのみとなったが、そんなことはどうでもいい。
「雅之、ようきたなぁ!あいかわらず男前やなぁ、デニーズみたいやで!」
色々突っ込みたいところだらけなのは、大阪人のボケという諸行なのかしら?とキャサリンは大げさにコケテみせた。雅之の手の中で10センチの棒、もとい、魔法の杖がことこと震えた。
おばあちゃんと再会のハグもそこそこに、仏壇のおじいちゃんに「久しぶり~」と声をかけてから、さっそく出かけることにした。猶予は二日、いや三日しかない。学校のプールの補講を欠席するわけにはいかない。女子の水着姿を拝める期間限定のビックイベントだ。
心斎橋へ向かう地下鉄で、雅之は第一の試練にぶち当たった。
座っていた車両に急に人がなだれ込んできたせいで、雅之は両隣を怖いお兄さんで挟まれる状態に陥ったのだ。
そして、雅之の前には腰の曲がったおばあさんと、その横には目をみはる美女が立っている。
ごくり。
唾をのみ込む。心臓の音が耳の中でこだまする。
雅之は目をつむり、おばあさんに席を譲る自分をイメージする。
美女は俺のスマートな行動にうっとりとして、目を潤ませるだろう。おばあさんと入れ替えわりに立ち、美女と見つめあう俺に嫉妬したクソボケヤンキー二人が、「なんだ、お前、かっこつけてんじゃねぇよ!」と突っかかってくる。
俺はキャサリンを素早く伸ばし、手に構え魔法陣を描くと、バイキンマン小が出現し、つぶらな瞳でおれを覗き込む。
その後どうしよう?
どんな指令をだしてヤンキー共を葬り去るか真剣に悩んでいたら、扉がひらき、心斎橋に着いた。
アメ村は、聞きしに及ぶサバンナだ。
そこかしこに、ライオンやチーターなどの肉食獣がよだれを垂らして雅之に狙いを定めている。
「お前らなぞ、恐るるに足らぬわ!」
思わず大きな声が出てしまったことに少し慌てたものの、声はすぐ雑踏にかき消された。
「ねーちゃん、遊ぼうな~、ええやんええやん!」
頭の弱そうなホスト風貧乏くさいスーツ男が、ぎりぎり80点女に声をかけている。
70点代女なら無視して先を急ぐところだが、いかんせん80点だ。可愛い。微妙に足がむくんでいるところを見ると、暇でうろうろ歩きまわっていたのだろう。
そこまで観察力があるくせに、ホスト系ナンパ師に今にもほだされそうな女の様子には気づくことなく、
「御嬢さん、大丈夫ですか。ここは私に任せて、お逃げなさい!」
と飛び出した。勢いで出てしまった。
妄想と現実とがごっちゃになり、体が勝手に動いたのだ。
周囲がにわかにざわめき、スマホカメラを一斉に向けられたことに驚いて、女はそそくさと立ち去る。
「お前なんやねん!なんか文句あんのか?キモメンよぉ!なんだそのTシャツ!REIWA?新元号リスペクトしてんのかよ!ウケる―!」
ナンパ師が笑い転げる中、一張羅の正装を馬鹿にされ、頭に血ののぼった雅之は、キャサリンをナンパ師に向け、大きくぐるぐる振り回しながら、
「月に代わってお仕置きよ~~~~~~!!」
と叫んだ。
野次馬達からどよめきが沸き起こる。
と、同時に、つむじ風がナンパ師を襲う!
ナンパ師の自慢の前髪は、ハードスプレーの効力を完全に無くし、花輪くんかスネ夫くんか分からないような状態に変貌を遂げた。
「うわ、なんだこの風!最悪!」
鏡を取り出して自分の状況を察したナンパ師は、雅之なんて居なかったかのように、セットを直すために急いで立ち去った。
(ティラリティッティティー)
あの軽快な音楽と共に、雅之の額にLV3と赤い文字が現れ、すぐにまた消えた。
雅之は興奮を抑えきれず、
「ざまぁ!皆の者!俺の元にひれ伏すが良い~!」
大声で叫びながら、真っ直ぐにまんだらけのある方角へ走りだした。
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