~ダーリン★お仕置きだっちゃ!~
第七話 レベル2
コクヨ学習デスクの上に魔法陣がうっすら浮かび上がり、親指ほどのバイキンマンが現れた。
バイキンマン小は、従順そうな瞳で雅之を見つめる。
「ら、ラムちゃんじゃない。な、なんで。」
膝から崩れ落ちる様子は、驚いているのか、がっかりしているのかは不明だ。少なくとも嬉しそうではない。
何でも召喚できると思っていたようじゃな。魔力もレベルも1のくせに、なんて図々しいのか。しかし、魔法陣はいい線いっておる。キャサリンの能力を少しは使いこなせるようになるかもしれんな。神は、今のところ口を出す必要が無さそうなので、ちょいと熱海へ行くことにした。
一泊二日くらい、目を離してもいいだろう。
いそいそと西の空へ消えた。
神様、さぼるの早すぎるよ。キャサリンは呆れ顔でため息をつく。
雅之は、バイキンマン小を前に硬直したままだった。
バイキンマン小は、ラムちゃんってナンダロ? と思うも、口には出さず、召喚した主の指示を待つ。
「ラムちゃんはまだ早い、ということか。それで、またお前が召喚されたんだな?」
やっと気をとり直した雅之は、バイキンマン小を手のひらに乗せ、優しく話しかける。
バイキンマン小は薄くなり、消えかかっていた。雅之は何か指令をしなければならないと気付き、あわてて叫んだ。
「アイス買ってきて!」
底が空いている財布と化した貯金箱から、五百円玉を一枚取り出して、バイキンマン小に渡す。
バイキンマン小は、嬉しそうに大きな五百円を背中にを担ぎ、トコトコと階段を降りていった。
「そうか。ラムちゃんは無理か。俺はまだまだ修業が足らないのか?それにしても、バイキンマン小のやつ、可愛いな。」
雅之が今後の修行の内容を考えていると、バイキンマンが体の数倍はある袋を引きずりながら帰ってきた。
袋には摩擦によって出来た穴があり、引きずってきた跡はびしゃびしゃになっている。
パッケージに(アイス 飛騨高山のおいしい氷)と表記がある。
「そっちか~!!」
バイキンマン小は音もなく消えた。
召喚される相手を間違うと、パシリになる。という教訓を心に刻んだかどうかは知らないが、バイキンマン小は、立派に役割を果たした。コンビニまで走り、氷を探し、レジに五百円玉を投げつけ、大急ぎで雅之のもとに帰ってきた。
「指令は細かく、と。」
真新しいノートの1ページ目に、
●召喚魔法(魔法陣)
1、指令は細かく
と記した。
「ティラティティッティティー」
突然、軽快な音楽が流れ、雅之の額にLV2
と赤い文字が浮かびあがる。鏡を見たわけではないが、雅之は勘で、
「今、俺は経験値を獲得し、レベルがアップした!」
と的確に言い当ててみせる。
神が不在な割に、メキメキと成長を遂げる雅之。
キャサリンは上機嫌で、床に出来た水たまりで泳いでいた。
どのくらいのレベルに達したら、ラムちゃんを召喚できるだろうか?
雅之の頭の中は、「ダーリン★お仕置きだっちゃ~!」でいっぱいになっている。
トラ柄のコスチュームに小さな角を付けた、まんだらけに出没するのコスプレイヤーにさえもドキドキしてしまうのに、ご本人様登場とあらば、それなりの覚悟が必要かもしれない。
雅之は自身のレベルがまだそこに至っていないことに深く納得し、経験値獲得の修行に旅に出ることを決めた。