~バイキンマン~
第五話 召喚
なかなか、キャサリンは無口だ。
色々試しているが、ウンともスンとも言わない。
恥ずかしがり屋なのかもしれないなぁ。
雅之はガリガリ君コンポタ味をガジガジかじりながら、考えを巡らせていた。
「コンポタ、意外といける。今日はいい日だ。」
隣の席の篠原さんが消しゴムを落とした時に、制服の胸元から白いタンクトップがチラ見えした。タンクトップは主に黒派と白派に分かれるが、武田さんは白。大人っぽい女子は、下着の色を上下そろえる傾向があると、女子の生態研究仲間の山田が以前力説してくれた。
と、いうことは。
「篠原さんのパンティは白だ。」
風を巻き起こすまでもなく、パンティの色を当てるなんて、なんてクレバーなんだろう。と、うすら笑みを浮かべる。
「なに?まさか!」
ガリガリ君の棒に、あたり、の文字が出現した。長年のガリガリ君とのお付き合いの歴史上初めての経験。
「今日は冴えている。今なら何でも出来るはずだ!」
パンイチからREIWAと赤いロゴが目立つ真新しいTシャツとサイズがいまいち合わないデニムに着替えて、転げるように外へ飛び出した。
REIWAのTシャツは、UFOキャッチャーで獲得した戦利品だ。流行の最先端だと思い、とっておきの日に着ると決めていた。
マクドナルドの指定席は、雅之の為に温められていた。おそらく先客が直前まで座っていたのだろう。
「間接尻だ。」
可愛い女子が座った後に違いないと決めつけて、あまりの刺激的な妄想に耳まで赤くなる。
自分の幸運を恐ろしいとすら感じながら、雅之はキャサリンを30センチに伸ばす。いつも目立たないように、外では10センチサイズにしている。
「キャサリン、そろそろ力を開放してもいいぜ。」
そうつぶやくと、キャサリンを構え、宙に魔法陣を描いた。
マクドナルドのカウンターに魔法陣がうっすらと浮かび、小指サイズのバイキンマンのような生き物が突然現れた。
晃は驚くことはなく、バイキンマンに命じた。
「俺を後方援護してくれ!」
立ち上がると、階段を下り、注文カウンターに並んだ。
小指サイズのバイキンマンも、踏まれないように注意しつつ雅之に続く。
「スマイルひとつ。」
雅之は蚊の鳴くような声で、注文を伝えた。
雅之が密かに気に入っている高校生バイトの女の子は、爽やかな笑顔で言った。
「もう一度、お願いします!」
雅之の声のボリュームで、注文が聞き取れるはずない。
まぁ、注文のスマイルはもう頂いたので、満足した雅之は
「あ、もう大丈夫です、」と言いかけた時、
「「スマイルひとつ下さい!」」
雅之の首の後ろにくっついていたバイキンマンから発せられた声は、舞台俳優のように張りのあるビブラート。マクドナルドの二階の隅にも届くボリュームだった。
役割を果たした小さなバイキンマンは、静かに消えた。
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