~キャサリンの涙~
第四話 奇跡の瞬間
雅之は焦っていた。
「やばい。もうすぐ夏休みだ。」
学校が大好きだ。女子がたくさんいる。
夏休みは、女子に会う機会が減る。
訂正する。減るとかじゃない。皆無に等しい。
毎年夏休みに入ると、雅之は女子を渇望し、繁華街に一人で出かける。雅之にとって、繁華街は天国であり、地獄でもある。可愛い女子に会える確率と、お洒落ピーポーや、怖いお兄さんに出会う確率が均衡している。
お洒落ピーポーは、雅之の敵だ。怖いお兄さんよりもたちが悪いのが、奴らはウロウロ徘徊し、自分と違う人種を侮蔑する為に生きている。
((ワレワレハオシャレデアリオシャレコソセイギ))
という目で、雅之を制圧しにかかる。
そんな危険をおかしてまで、女子を欲す自分が少し誇らしい。雄である。雄々しい男だ、と自分を鼓舞し、マクドナルドを目指す。マクドナルドの二階の窓際カウンター席が、雅之の指定席なのだ。
命からがら辿り着いたマクドナルドで、可愛い女子が通りかかるたびに、「あの子なら彼女にしてやってもいい。」だの、「あと一歩、胸さえあれば合格点。」などと愛でながら一日を過ごす。
「今年の夏は違う。キャサリンを自在に扱えるようにさえなれば、女子の服を自分にだけ透けて見えるようにしてやる。」
杖を駆使してモテると決めている雅之だったが、いかんせん想像力はどうすればモテるのか、に至らず欲望ばかりが先行している。
方向性がちがうぞ、雅之よ、欲望に走るでない。自分を磨き、シュッとする為にキャサリンを使いこなすのじゃ!さすればモテ期がおとずれるであろう!!
神は渾身の力で念を送る。
「はっっ!!俺としたことがいかんいかん。服を透けさせている場合じゃない。キッスだ。四段飛ばしでその段階に駆け上がる。」
四段やそこら飛んだくらいで、そんなミラクルに到達すると考えているところが愛おしい。しかし、テレパシーがなんとか届いて良かった。
選択する方向をまた間違えそうになる雅之を、いい感じに導けた。やれやれ、世話がやける。
神は雅之をまだ見守っていた。旅行には当分行けそうにない。放っておくと、犯罪者まであと一歩というところだとさえ思った。
少し脱線した。まだ何も起こっていない。
「やばくない?また悟られがこっち見てなんかつぶやいてる。」
「うわ、ほんとだ、こわ!!」
掃除の時間になった。昨日は失敗に終わったテクマクマヤコンは保留にする。呪文は声を必要とする。学校や外で大声で呪文を唱えていたら、誰か勘のいいやつにキャサリンの存在がばれて、盗まれるかもしれない。
本気でそう危惧しているこのスットコドッコイは、新しい方法を考え付いた。
「風呂でお湯が噴き出たのは、よく思いだしたら、かき混ぜたような気がする。」
キャサリンは、感動で泣きそうになった。神も同じだった。
ミトコンドリアが、一気に鳥にまで進化する奇跡を目の当たりにしたのだ。
「今日は君にロックオン!」
掃除場所が同じでほうきの扱いが上手い長谷川さんが標的に定められた。細い手首が器用に動くさまは、何だか少しだけエロい。それに、ほうきが上手いなんて魔女っ娘みたいだ。魔法使いである僕にふさわしい。
雅之は、おもむろにキャサリンを自分に向け、くるくると回す仕草をした。
痛い!
手首をやったようだ。名誉の負傷だ。
奇跡的にヒットした仕草によりキャサリンの魔力が発せられる。つむじ風が雅之の前髪をふわっと持ち上げた。
眼鏡にかかるくらい伸びてぼさぼさの厚みのある前髪。
雅之の切り傷のように細い瞳は、久しく学校では封印されていた。
「キツネ目のマー君。」と呼ばれたことをきっかけに、雅之は二重になる特訓をしていた時期がある。目の奥にぐっと力をこめてみたり、アラビックヤマト糊を瞼に塗り、小さく切った折り紙を貼り付けた。そんな幼少期を経て、前髪が長いとミステリアスっぽい、という妥協点に辿り着いた。
とにもかくにも、それは雅之が初めて魔法を使った瞬間だった。
が、しかし。
雅之は手首の痛みと、今回の魔法のそのあまりにも地味な効力のため、魔法は不発だったと結論づけたのだ。
雅之くん!
涙で前が見えなくなりそうなキャサリンの叫びは、やはり届くことは無かった。
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