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~初キスはレモン味~

第三話 篠原さんと武田さん 




 翌日俺は、キャサリンを学校へ連れて行くか悩んだ。




 家に置いておくと、おかんがキャサリンを可燃ごみに混ぜる可能性がある。


セミの抜け殻、立派な流木、お洒落な石。前科三犯だ。




 もし学校で女子にキャサリンを見つかったら?




「なにこれ、ツルツルしてる。」


「え、可愛くない?」


「雅之君、ちょっと触らせて。」


「あ、なんかいいにおい!」


「くんくん」


「あ、顔近づけたら、唇が触れちゃった!」


「ごめんね、返すね。」




「「ある。あるぞ。ありだ!!持っていこう!!」」




 想像上の間接キス確定に興奮気味で、階段を駆け下り、洗面所からおかんの高そうな薔薇の美容液をかっぱらってキャサリンに塗りたくった。




 無い、無いよ、雅之くん。




 キャサリンは呟いたが、キャサリンの声は雅之には届かない。美容液で微かに薔薇の香りをまとったのは悪い気はしないものの、深くため息をつく。




 普通ならば、世界征服や魔王討伐の相方として活躍するべき存在。


広い杖界でも、女の子にもてるというピンポイントかつ馬鹿げた目的のお供にされるなんて、きっと私くらいだ。




 お母さん、お父さん、ごめんなさい。私、期待通りの娘になれそうにない。でも、杖に生まれた限りは、持ち主の役にたちたい。私は私の役割を、精一杯果たすわ!




 「起立」「礼」「着席」


 ホームルームの始まりと共に、雅之は最初のターゲットを隣の席の篠原さんに決めた。




 高い位置で束ねた黒髪からのぞく色白の首が少し焼けて、うっすら赤い。そこがまた良い。




「マハリクマハリタ!」




 机の下でキャサリンを正確に篠原さんに向ける。




 何も起こらない。




 声にこそ出さないものの、心の中ではキャサリンに




「「風よ巻き起これ!スカートからパンティを開放せよ!!」」




と大音量で命じている。




もし心の声が漏れていたら、雅之はクラスのカースト最下層を突き抜け処刑、不登校確定だ。




 マハリクマハリタは、魔法少女系を得意とする雅之がとりあえずチョイスした古典的な呪文である。




「おかしいな。念じる力はマックスだったから、呪文が違うのか?杖の動かし方が問題なのか?ハリポタではイントネーションが少し違うだけで呪文は発動しない。これは、家に帰ってあらゆるイントネーションを試す必要がありそうだ。




 やっと30センチに戻ったキャサリンは大きく伸びをした。縮んでいる時は、かがんだままじっとしているので、肩(節)が凝る。杖も楽じゃない。




 雅之は、考え得る限りのパターンでマハリクマハリタのイントネーションとキャサリンの動作を試していた。


 30分ほど練習したが、何も起きることなく諦めた。


 そもそも、イントネーションの種類と動作の種類を掛け合わせた確率を試すことなど、30分やそこらで出来る訳がないのだが、雅之の知能では、30分でやり尽くしたと感じることができる。たいそうおめでたい奴だ。




 キャサリンはため息をついた。




 しかし、そんなことはお構いなしに、雅之はキュウっとキャサリンを握りしめると、外へ飛び出す。




「あっちーな。」




 雅之は、アイスを買いにコンビニへ向かっていた。昨日のリベンジにスイカバーを買うつもりだ。




 アイスの陳列してある冷凍コーナーは一番奥だ。




 ふと、少し柔らかそうな肉感の後姿の武田さんが目に入った。女子の中では決して目立つタイプではないが、クラスの男子からは好きな女子上位にあがる実力者だ。




 モデル系スレンダー女子もいいが、少しの肉感は女性を可愛らしく見せる。どちらかというと、後者が好みの雅之の心臓は高鳴った。、




 忍者のごとくパンコーナーに身をひそめ、




「よし、キャサリン、出番だよ。」




 小さく呟くと(やはり心の声は漏れることが多い)




「テクマクマヤコン!武田さんの友達の石田さんになぁれ!」と心で唱え、キャサリンを自分に向けた。




 テクマクマヤコンもまた、古典的な変身系呪文である。




この馬鹿の頭を解説すると、石田さんに姿を変え、




「キャー(ハグしてピョンピョンはねる)


やだ、みーにゃん!(武田美穂の愛称)何してんの?」




 となるであろう展開の、(ハグ)をピンポイントに取りに行こうという話だ。




 ハグは良い。ふわふわ系女子とハグするのは、男子の永遠の憧れではないだろうか。体の前面が接する上にピョンピョンと跳ねるオプションにより、より嬉しい感触を楽しめるはずだ。 




 不気味な笑みをたたえる雅之は、身をかがめもう一度違うイントネーションで「テクマクマヤコン」と早口で唱える。




 しかし武田さんは、ピノの新作レモン味を手に、レジへと消えていった。




 雅之は、当初の目的がスイカバーだった事を忘れ、ピノレモン味を買って帰宅した。




「キスの味っぽいぜ。」




 扇風機にあたりながら、まったりしたレモン味のピノを楽しんで、それはそれで幸せな妄想を楽しんだ。

読んで頂いてありがとうございました!


評価頂けたら喜びます。次話も読んで頂けたら最高に幸せです。


ご指摘など頂けたら、すぐに対応したいと思います。


駆け出しですが、長くやっていきたいと思っています。よろしくお願い致します。

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