~ボス戦勝利~
第22話 最強の二人
「もしもし、先ほどの者です。今、ギャルソンの向かいのビルの七階のホストクラブにいるんですが、こちらに来て頂くことって可能ですか?いえ、遊んでる訳ではなくて。実は、専務の方に借金をしていまして。一度会って相談を聞いてもらえませんか?私、何でもします。今は軟禁状態で。来て頂けなかったらどうなるか。とにかく、お願いします。助けて下さい!」
「はい。はい。未成年です。働ける年齢になったら、かならず。はい。お願いします。」
「お前、未成年なんやな?20歳言うて騙しやがって。」
「ママ、今から来て話聞いてくれるって。」
「そうか。なら、今のうちに念書書いてもらおか。」
俺は、なんで仙人のいう事を聞いて待っていられなかったのか。警察に通報さえしていたら、おばさんの仇はとれないまでも、無事に帰れたはずだ。
どうしよう、俺はどうなってもいい。仙人を守る。
小さく息を吸い、キャサリンに力を込めて、男の頭に振り下ろした。
コツ
軽い音が出た。
「いて。てめぇ、何してんだよ!女に守られて、いいでちゅね~!まじで、亜矢から金取れなかったら、ただですむと思うなよ!」
だめだ、やっぱり魔法に頼るしかない。
怒声を聞きながら、キャサリンを右へ左へ、色々な角度で試す。
何も起きない。さっきは出来たのに。
ガタン!ドドドド!
足音と共に、警察が数人雪崩込んできた。
「やべ!なんでサツが来んだよ!」
バタバタと慌てふためくホスト達は、我先にと入り口に向かい、逃走をはかる。専務は、警察に両側から挟まれ、拘束された。
「やめろや!俺何にもしてねぇよ!」
「さっきの電話は君だね、大丈夫か?」
「あれ、少し飲酒してる?」
「未成年に無理やり飲酒させて、軟禁の上脅迫か。」
「こいつが勝手に二十歳て嘘ついて飲んだんだよ。離せや!」
「これ以上暴れたら、公務執行妨害で現行犯逮捕になるぞ。」
「監禁容疑、あとは風営法違反やな。署まで来てもらおか。」
「君たちも署で話聞かせてな。」
青ざめる俺の傍らで、仙人は満足げに笑っている。
どうしよう、俺のせいで、最悪の事態だ。
モンスター討伐ごっこは幕を降ろし、言い知れない罪悪感が残った。
ティラリリツティティー
軽快な音と共に雅之の額に赤くLV5と浮かびあがる。
雅之はレベルが上がった。カマイタチの呪文を憶えた。
「ん?今なにか音が鳴ったか?」
警察のおじさんが振り返った時には、額の文字は消えていた。
空想の冒険から現実に戻された状態でも、魔法は消える事のない現実だった。
仙人のお母さんの迎えを待つ間の時間、何がどうなってのか?殆ど理解出来ない俺は仙人を質問攻めにした。うちのおかんは、遠いから来ないらしい。
「何で、名刺俺が拾って持ってたの知ってたん?」
「お前がアイテム捨てる訳ないなって。オレはいらんくて捨てたけど。おかげで助かった。」
「初めから、あのスカウトしてきたママに連絡するふりして警察呼ぶ作戦やったん?」
「ん。名刺のこと思い出して、あ、これでイケる!と思ってな。ふじこも騙してごめんな。」
「そんなんどうでもいい。それより、おばちゃんの仇は?」
二カッ と悪戯っ子みたいな笑いを浮かべて、親指を立てる。
「未成年を入店させた時点であいつら風営法違反で、もう店できへんわ。それに、あのボスキャラ専務、クスリ売買に関与してる。店のあほなホストが教えてくれてん。店舗に立ち入り検査はいるから、逃げられへんやろな。」
「そんな危ないとこで、一人で。」
感情が溢れて、涙がとまらない。
「来てくれてありがとさん。」
「最初から俺が通報してたら済む話やったんやな。」
「でもな、お前、夢あるのに!学校とか親とか。理想のAIロボット作るんだろ?こんなことで足止めくったらどうすんだよ!」
「あほ。停学になろうが、どんな回り道しようが、前にさえ進んだら、夢には辿り着く。止まらんかったら、辿り着く。」
「それにな、お母さんに話すいい機会やわ。オレ、いままでいい子のふりして、自分も親も騙して生きてきた。ちゃんと、話するわ。」
「そか。ほんま、仙人はすごい。」
「ふじここそ、すごい。」
「鎌鼬の呪文かな?あのてっぺんハゲ!」
うん、何が何だかわからんくて。でも、すごいの出た。
「おかげで、レベル上げ成功ってな!」
「やっぱ、俺たち二人で最強やな!」
警察の人にしこたま怒られたけど、反省もしたけど、後悔はしてない。
最高の、夏休みの思い出だ。
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