~キャサリン縮む~
第二話 勘だけは良い
「ふんふんふん」「んん~」
こいつは鼻歌が異常に上手い。歌は下手なのに不思議だ。いっそのことボイパでも極めたら、好きになってくれる女子が一人くらい現れる気がしなくもない。
上機嫌で眼鏡ふきでキャサリンを磨く。キャサリンはますます輝きを増した。
「あ、そうだ。キャサリン、お主は何か力を秘めておるな?そうじゃろう?出でよ!!女神よ!!」
違う人格が乗り移ったような口調は、心底気持ち悪い。妹の美由紀が虫けらを見るような目で兄を見るのも無理はないだろう。それにしても、世界旅行から帰って、真面目にこいつを観察していると、自分のせいで幸福を逃してきたであろう、この小さき生き物が、あまりに情けなくて、かえって愛しくすら感じてきた。神である自分の出来る仕事は、こいつが選択する道を誤りそうな時に、勘、といういわばテレパシー機能を利用して伝えることだ。その他は見守る以外ほとんど手を出すことは協会から禁じられている。
雅之の勘が良いのは、どうでもいいことに関してだった。大事な場面で選択を間違えてきた事実は、雅之担当の神の怠慢としか言いようがない。しかし、実力では勘は良い。ポテンシャルは悪くないのだ。今後しばらくは気まぐれな旅好きの神が見守るようであるし、雅之は劇的に幸福な生活を手に入れることになる?かどうかは、キャサリン次第かもしれない。
「そうか。女神系じゃねぇか。」
残念そうにつぶやくところをみると、やはり真剣にキャサリンが神から祝福を受けた何かであろうと確信している。世間でいうところの、やばいヤツ。それが、雅之だ。しかし、さすがのポテンシャルだ。
当たらずとも遠からず。そうじゃ、キャサリンを信じ、道を切り開け。
心から願う神のテレパシーは雅之にしっかりと届いていた。
「キャサリンを俺は信じるぜ。キャサリン、俺の野望に力を貸してくれるよな!」
見た感じ指揮者の持つ棒、先生の持つ指示棒、に親愛を込めて話しかける。そして、じっと見つめて観察しはじめた。
「素材は分からん。ピカピカ。つるつる。長さ30センチ。節がいくつかある。ん?なんだこの節。見たことある感じ。あ!あれだ。折り畳み傘の、伸縮する連結部分。」
そうつぶやきながら、キャサリンの上下に手を添え、挟むようにして力を込める。
『しゅっ』
地味ながら、小気味のいい音をたてて、キャサリンが縮んだ。
「は!!」
「まじか!伸縮できるのか!スゲー。」キラキラした瞳でキャサリンを見つめる。
全10センチにまで縮んだ。手のひらで包める。
「かわいいな。」雅之は嬉しそうに手のひらに乗せて眺める。
今度は両端を持って引いてみると、思った通り、もとの長さに戻った。
そういえば、と雅之は思い出した。
「風呂で水が噴き出たあれ、お前がしたの?」
ポケモンにでも話しかけるような様は、本当にヤバい奴なことに間違いは無かったが、良いように言えば、純粋、なんだろう。
そもそも雅之はここまでの会話を実際に声に出している。小声ではあるが、考えていることが口にでてしまう癖で、学校では「悟られ」と呼ばれている。もちろん本人は気づいていない。
キャサリンが頷いた気がした。神がテレパシーを全力で送っているのだ。これまでの罪滅ぼしなのか、神は仕事を頑張っている。気まぐれな神がまた旅行に行かないうちに、頑張れ、雅之!
筆者は神ではないが、ついつい雅之にエールを贈りたくなる。
雅之とキャサリンの二人三脚が始まった。
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